女性起業家の資金調達は、なぜ難しいのか——最近の研究から考える「男女格差」と「地方の壁」

戸外を歩くビジネスマン

資金調達の相談を受けていると、女性起業家の方からよく聞く言葉があります。

「銀行に相談したけれど、あまり前向きに見てもらえなかった」
「投資家に話しても、事業の可能性よりリスクばかり聞かれた」
「地域に必要な事業だと思うのに、なかなか資金につながらない」

こうした悩みは、決して珍しいものではありません。経済産業省も2024年8月8日の発表で、多くの女性起業家が起業家ネットワークへのアクセスや資金調達の難しさといった特有の課題を抱えているとしています。

この記事では、2025年から2026年にかけて確認できる近年の研究をもとに、女性起業家の資金調達で何が起きているのかを整理します。

目次

1. 女性起業家の資金調達格差は、数字にも表れている

まず確認したいのは、女性起業家が資金調達で不利になりやすいという点です。

アフリカのスタートアップ資金調達を追跡するAfrica: The Big Dealは、2025年1月14日に公開した分析で、2024年に女性CEOが獲得したスタートアップ資金は4,800万ドルにとどまり、男性CEOの約22億ドルと大きな差があったと報告しています。女性CEOが受け取った資金は全体の2%でした。

もちろん、この数字をそのまま日本に当てはめることはできません。ただ、重要なのは、起業家精神がある地域であっても、実際に資金が配分される段階では大きな偏りが生まれるという点です。

2025年1月16日にSmall Business Economicsで公開された系統的レビューでも、VCやエンジェル投資のような伝統的なエクイティ資金調達では、男性起業家の方が資金を得やすい傾向が整理されています。

2. 問題は「女性だから」だけではない

金融契約文書に目を通す女性

ただし、ここで注意したいのは、「女性起業家は資金調達で不利」という一言だけでは、現場の実態を説明しきれないということです。

都市部で起業する女性と、地方で起業する女性では、資金調達の環境が大きく違います。

都市部には、VC、エンジェル投資家、スタートアップイベント、アクセラレーター、専門家ネットワークなどが集まりやすい。一方で、その分だけ競争も激しく、投資家側の評価バイアスに直接さらされやすい面があります。

地方では、そもそも資金調達の相談先が限られます。金融機関はあっても、スタートアップ型の事業に慣れていない場合があります。投資家との接点も少なく、地域の人間関係や家族内の役割、担保資産の名義などが、資金調達の前に立ちはだかることもあります。

インドを対象にした2026年の研究は、「都市にいる方が女性起業家にとって必ず有利」という単純な見方を問い直しています。出典はInternational Journal of Sociology and Social Policyで、掲載情報は2026年2月5日に確認されています。

3. 地方の女性起業家は「二重の壁」に直面する

地方の女性起業家が難しいのは、「女性であること」と「地方にいること」の二つの壁が重なるからです。

南アフリカの地方女性起業家を対象にした2025年9月23日公開の研究では、地方の女性起業家が資金調達で直面する課題として、担保要件、金融リテラシー不足、インフラ不足、社会文化的な規範が挙げられています。分析対象文書の65%超に、差別や制度的な金融排除に関するテーマが含まれていたことも報告されています。

特に銀行融資では、担保や過去の実績が重視されます。しかし、土地や不動産などの資産が本人名義ではない場合、事業の内容以前に、融資の土俵に上がりにくくなります。

これは海外だけの話ではありません。日本の地方でも、家族名義の資産、地域内の信用、事業者としての実績、家事・育児・介護との両立などが、資金調達の前提条件に影響することがあります。

4. 支援制度が「都市型の成長モデル」に偏ると、地方女性の事業はこぼれ落ちる

高齢者と話すアドバイザー

もう一つ大きな問題があります。それは、支援制度そのものが、都市型の急成長モデルを前提に作られやすいことです。

スウェーデンの地方女性起業家を対象にした2025年11月10日公開の研究では、公的な事業支援制度が、経済成長、技術革新、個人事業のスケールを重視しすぎることで、社会的・文化的・環境的な価値を大切にする地方女性の事業を取りこぼしていると指摘されています。

地域で必要とされる事業の中には、急成長を目指すものばかりではありません。

高齢者の生活を支えるサービス。
地域資源を活かした小さな製造業。
女性や子育て世帯の困りごとを解決する事業。
農業、観光、ケア、教育、健康に関わる事業。

これらは、短期間で売上を何倍にもするタイプの事業ではないかもしれません。しかし、地域にとっては必要不可欠な事業です。

それにもかかわらず、支援制度が「売上が急成長するか」「雇用が一気に増えるか」「技術革新性が高いか」だけを見てしまうと、地域を支える女性の事業は評価されにくくなります。

5. クラウドファンディングやデジタル金融は、可能性があるが万能ではない

近年の研究では、クラウドファンディングやデジタル金融包摂が、女性起業家の新しい資金調達ルートになり得ることも示されています。

2025年1月16日に公開された系統的レビューでは、VCやエンジェル投資では男性起業家が有利である一方、エクイティ・クラウドファンディングでは女性起業家が相対的に成功しやすい傾向が整理されています。

一方で、2025年8月12日にオンライン公開されたManagement Scienceの論文では、英国のエクイティ・クラウドファンディングデータを用いて、女性創業者は希望調達額を低く設定し、成功しても調達額が少なくなりやすいこと、特に女性のみのチームでは資金ギャップが大きくなることが示されています。

つまり、クラウドファンディングは「女性なら必ず成功する魔法の手段」ではありません。

ただし、銀行やVCとは違う評価軸を持てることは大きな意味があります。事業の背景、顧客の困りごと、地域への必要性、創業者自身の想いを、直接応援者に届けることができるからです。

6. デジタル化は「ツール」だけでは足りない

インドネシアの女性所有MSMEを対象にした2026年5月25日公開のFrontiers in Human Dynamicsの研究では、女性事業者がデジタル技術や金融サービスの重要性を認識していても、実際の活用にはつながりにくいことが示されています。その理由として、実践スキルの不足、時間制約、メンタリング不足、事業の法的要件や資産所有に関する構造的障壁が挙げられています。

この研究が重要なのは、「金融リテラシーを教えれば解決する」という単純な話ではないと示している点です。

知識は必要です。 でも、知識だけでは動けないことがあります。

申請書を一緒に作る人。 数字を事業計画に落とし込む人。 金融機関に説明できる形に翻訳する人。 家事や育児の時間制約を前提に、無理のない進め方を設計する人。

女性起業家に必要なのは、単発のセミナーだけではなく、実行まで支える伴走です。

7. 銀行目線で見ると、女性起業家が準備すべきこと

会計

ここからは、元銀行員としての実務目線も含めて整理します。

資金調達で重要なのは、「良い事業であること」だけではありません。相手が何を見て判断しているのかに合わせて、伝え方を変える必要があります。

融資の場合

金融機関が見るのは、主に返済可能性です。どれだけ想いが強くても、返済原資が見えなければ融資判断は難しくなります。

準備すべきものは、資金使途、必要金額、売上見込み、粗利、固定費、返済原資、自己資金、既存の実績です。

補助金・助成金の場合

見るべきは、制度の目的との一致です。自分の事業が、地域課題、女性活躍、雇用、デジタル化、販路開拓、社会的インパクトなど、どの政策目的に合うのかを整理する必要があります。

クラウドファンディングの場合

重要なのは、共感と応援理由です。「なぜ今必要なのか」「誰の困りごとを解決するのか」「なぜあなたがやるのか」を、生活者の言葉で伝える必要があります。

VC・エンジェル投資の場合

求められるのは成長可能性です。市場規模、再現性、競争優位、チーム、出口戦略を説明できなければ、事業の社会的意義が高くても投資判断にはつながりにくくなります。

8. 資金調達で悩む女性起業家が、最初にやるべき3つのこと

女性起業家

1つ目:自分の事業が「どの資金に合うか」を見極める

すべての事業がVC向きではありません。すべての事業が融資向きでもありません。

地域密着型で着実に売上を作る事業なら、融資や補助金、地域金融機関との関係性づくりが合うかもしれません。

新しい商品やサービスを広く知ってもらいたい段階なら、クラウドファンディングが合うかもしれません。

短期間で大きく成長させる事業なら、投資家との対話が必要になるかもしれません。

2つ目:想いを「資金提供者の言葉」に翻訳する

女性起業家の事業には、生活者としての気づきや、地域での実感から生まれたものが多くあります。

それは大きな強みです。

ただし、金融機関や投資家に伝えるときは、その想いを数字や事業構造に翻訳する必要があります。

「困っている人がいる」だけでなく、どれくらいの人が困っているのか。 「必要なサービスです」だけでなく、誰がいくら払うのか。 「地域に貢献します」だけでなく、どのように売上と継続性を作るのか。

ここを整理するだけで、資金調達の伝わり方は大きく変わります。

3つ目:一人で申請しない

地方の女性起業家ほど、一人で頑張りすぎてしまうことがあります。

しかし、資金調達は一人で突破するものではありません。

金融機関につなぐ人。 事業計画を一緒に整理する人。 補助金の制度目的を読み解く人。 クラウドファンディングの見せ方を考える人。 地域内で最初の応援者になってくれる人。

こうした人をどう巻き込むかも、資金戦略の一部です。

9. 女性起業家支援に必要なのは、一律のメニューではない

最近の研究から見えてくるのは、「女性起業家支援」とひとくくりにしたメニューでは届かない層があるということです。

都市部の女性には、バイアスの少ない投資環境や、成長市場へのアクセスが必要です。

地方の女性には、担保に頼らない信用の作り方、地域の人間関係を資源に変える支援、スモールビジネスや地域密着型事業を正しく評価する仕組みが必要です。

急成長だけを成功とするのではなく、地域を支える事業、女性の生活課題から生まれた事業、長く続く小さな事業にも、資金が回る仕組みが必要です。

10. まとめ:断られたことは、事業の価値を否定されたことではない

資金調達で断られると、自分の事業そのものを否定されたように感じることがあります。

でも、必ずしもそうではありません。

持っていく先が違ったのかもしれない。 見せ方が合っていなかったのかもしれない。 成長モデルの説明が足りなかったのかもしれない。 逆に、急成長型ではない事業を、急成長前提の資金に持っていってしまったのかもしれない。

資金調達は、根性論ではありません。設計です。

女性起業家をひとくくりにせず、都市なのか地方なのか、事業の成長段階はどこか、どんな資金が合うのか、誰にどう伝えるべきかを整理すること。

そこから、次の一歩は作れます。

資金調達で悩んでいる女性起業家の方、そして地域で女性起業家を支える支援機関の方へ。

必要なのは、「もっと頑張ること」ではなく、事業に合った資金戦略を一緒に設計することです。

参考文献・出典

確認日:2026年6月30日

  • Africa: The Big Deal “2024 It’s a Man’s Man’s Man’s World”(2025年1月14日公開)
  • Koziol, Schmitz & Bort “Gender differences in entrepreneurial equity financing—a systematic literature review”(Small Business Economics、2025年1月16日公開)
  • Hellmann, Mostipan & Vulkan “Entrepreneurial Fundraising Strategies and the Gender Gap: Theory and Evidence from Equity Crowdfunding”(Management Science、2025年8月12日オンライン公開)
  • Mallick & Ramachandran “Gender, geography and access to finance: rethinking the urban advantage for women entrepreneurs in India”(International Journal of Sociology and Social Policy、2026年)
  • Roos & Ahl “Gendered Mismatches in the Business Support System in Rural Sweden”(Rural and Regional Development、2025年11月10日公開)
  • Vorster & Thaba “Exploring Funding Options for Female Entrepreneurs in Rural Areas in South Africa”(Administrative Sciences、2025年9月23日公開)
  • Pranitasari, Suriawinata & Warcito “A gender-sensitive sustainable model of digital and financial inclusion for women-led MSMEs in Indonesia”(Frontiers in Human Dynamics、2026年5月25日公開)
  • 経済産業省「地域における女性起業家支援事業の公式サイトを公開し、女性起業家と支援者のマッチングイベントへのエントリー受付を開始しました」(2024年8月8日公開)
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西谷 佳之(Yoshiyuki Nishitani) 0→2事業加速アクセラレーター / MBA / 株式会社エオストレ 代表取締役 地方銀行で約30年勤務し、1,000社以上の中小企業を支援。支店長として全店舗を表彰店に導いた融資・財務のスペシャリスト。大阪大学でベンチャー創生に携わった後、自らも複数のベンチャー経営に参画。現在は、自社フェムテックベンチャーを経営しつつ、関西にて複数の大学非常勤講師として起業教育に携わる一方、大阪と高知を拠点に、「0→1」及び 起業直後の「1→2」フェーズに特化した伴走支援を行う。著書・寄稿多数。銀行員の「数字の目」と経営者の「現場力」で事業の生存率を高めている。
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