KBFから顧客のJOBを逆算する、もう一つの事業設計
マーケティングや新規事業の本を読むと、よくこう書かれています。
まず顧客の課題を見つける。
次にターゲットを設定する。
その上で、提供価値を考え、商品やサービスを設計する。
たしかに、その流れは正しいと思います。
顧客不在の商品開発は、どうしても作り手の自己満足になりやすい。
「いいものを作れば売れる」という考え方だけでは、今の時代はなかなか通用しません。
しかし、実際のビジネスの現場では、必ずしもその順番で進められるわけではありません。
すでに商品がある。
すでに技術がある。
すでに仕入れられる商材がある。
競合商品も存在している。
その状態から、
「この商品を、誰に、どのように売っていくのか」
を考えなければならないケースは非常に多いのです。
特に中小企業やスタートアップ、あるいは既存事業の見直しでは、むしろこちらの方が現実的かもしれません。
そこで今回は、通常とは少し逆の流れで、ビジネスモデルを考えることができないかを考えてみたいと思います。
商品の特徴を整理する。
他社の商品特徴と比較する。
差別化できるKBFを策定する。
そのKBFによって解決できるJOBを表面化する。
そして、ターゲットを設定する。
この流れで、本当にターゲット設定まで可能なのでしょうか。
結論から言えば、可能です。
ただし、注意点があります。
それは、この方法で設定したターゲットは、あくまで「仮説」であるということです。
KBFは「選ばれる理由」であって、JOBそのものではない

まず整理しておきたいのが、KBFとJOBの違いです。
KBFとは、Key Buying Factorの略で、顧客が商品やサービスを選ぶときに重視する購買要因のことです。
たとえば、冷凍宅配弁当で考えてみます。
価格が安い。
味がおいしい。
栄養バランスがよい。
カロリーが管理されている。
たんぱく質が多い。
電子レンジだけで食べられる。
メニューが豊富。
定期購入しやすい。
こういったものが、KBFになり得ます。
一方で、JOBとは何でしょうか。
JOBとは、顧客が本当に片づけたい用事のことです。
冷凍宅配弁当を買う人は、単に「弁当が欲しい」わけではありません。
仕事で疲れていても、罪悪感の少ない食事をしたい。
ダイエット中でも、食事管理を簡単に続けたい。
一人暮らしの親に、栄養のある食事を届けたい。
料理が苦手でも、健康的な生活をしたい。
筋トレの効果を高めるために、たんぱく質を手軽に摂りたい。
こうした背景にある目的がJOBです。
この考え方は、Jobs to be Doneという考え方ともつながります。
Christensenらは、顧客を単なる属性で見るのではなく、「その人がどのような状況で、どのような進歩を求めて商品を選ぶのか」を見ることが重要だと述べています。
つまり、顧客は商品そのものを欲しがっているのではありません。
その商品によって、何かを進めたい。
何かを解決したい。
何かを避けたい。
何かを楽にしたい。
そのために商品を選んでいるのです。
ここで重要なのは、KBFとJOBは同じものではないということです。
KBFは、顧客が商品を比較するときに見えやすい要素です。
JOBは、そのKBFを重視する背景にある目的や状況です。
ここを混同すると、マーケティングは浅くなります。
「うちの商品は高たんぱくです」
「うちの商品は低糖質です」
「うちの商品は簡単に食べられます」
これだけでは、まだ商品の説明です。
大切なのは、その特徴を顧客がなぜ評価するのかです。
なぜ高たんぱくが必要なのか。
なぜ低糖質でなければならないのか。
なぜ簡単に食べられることが重要なのか。
この「なぜ」を掘り下げた先に、顧客のJOBが見えてきます。
商品特徴は、顧客価値に変換して初めて意味を持つ

ここでもう一つ、参考になる考え方があります。
GutmanのMeans-End Chain、いわゆる手段目的連鎖モデルです。
これは、簡単に言えば、顧客は商品の属性だけを見ているのではなく、その属性がもたらす結果、さらにその先にある価値を見ているという考え方です。
商品の属性。
それによって得られる結果。
その結果によって満たされる価値。
この連鎖で考えると、商品特徴からJOBを考える流れが見えやすくなります。
たとえば「レンジで5分」という特徴があります。
これは単なる機能です。
しかし顧客から見ると、
調理の手間が減る。
疲れていても食事を用意できる。
生活リズムを崩さずに済む。
健康管理を続けられる。
という結果につながります。
さらにその先には、
忙しい中でも、自分の生活を整えたい。
自分をきちんと管理できている感覚を持ちたい。
という価値があるかもしれません。
つまり、商品特徴をそのまま語っても、顧客には十分に届かないことがあります。
商品特徴を、顧客にとっての結果や価値に変換する。
その過程で、KBFやJOBが見えてくるのです。
Zeithamlの知覚価値の研究でも、顧客は単に価格や品質を個別に見ているのではなく、「得られるもの」と「支払うもの」を比較しながら価値を判断すると整理されています。
これは実務でも非常に大切です。
価格が安いから売れるとは限らない。
品質が高いから売れるとも限らない。
機能が多いから売れるとも限らない。
顧客が「自分にとって価値がある」と感じたときに、商品は選ばれます。
だからこそ、KBFを考えるときには、自社の特徴を並べるだけでは不十分なのです。
商品起点の逆算は、実務ではかなり使える

では、商品から始める考え方は間違いなのでしょうか。
私は、そうは思いません。
むしろ実務では、商品起点で考えた方が前に進む場面も多いのです。
たとえば、自社の冷凍宅配弁当が、競合と比べて次のような特徴を持っていたとします。
高たんぱく。
低糖質。
レンジで5分。
味にもこだわっている。
ただし、価格は少し高め。
このとき、単純に「健康志向の人向け」としてしまうと、少し広すぎます。
健康志向の人はたくさんいます。
しかし、その全員がこの商品を選ぶわけではありません。
ここで競合と比較してみると、自社が勝てそうなKBFが見えてきます。
たんぱく質をしっかり摂れる。
糖質を抑えられる。
調理が簡単。
味に妥協しなくてよい。
価格よりも、継続しやすさを重視する人に合う。
ここまで整理すると、少しずつ顧客の姿が見えてきます。
このKBFを重視する人は、どのようなJOBを持っているのでしょうか。
忙しくても体づくりを継続したい。
食事制限をしたいが、自炊や栄養計算は面倒。
コンビニ食では栄養管理に限界を感じている。
外食を減らしたいが、味気ない食事は続かない。
こう考えると、ターゲットは「健康志向の人」ではなくなります。
たとえば、
仕事が忙しく、自炊の時間はない。
しかし、体型管理や筋トレは継続したい。
食事にも気をつけたいが、手間のかかる管理は続かない。
少し価格が高くても、継続できる仕組みを求めている30〜40代のビジネスパーソン。
このように、かなり具体的になります。
つまり、商品特徴からKBFを整理し、そのKBFを必要とする背景を考えれば、ターゲット設定まで進めることはできるのです。
しかし、逆算だけでは危険です

ただし、この方法には落とし穴もあります。
それは、自社に都合のよいJOBを作ってしまうことです。
商品を起点にすると、どうしてもこう考えがちです。
「この商品の特徴を評価してくれる人は誰か」
「この強みを欲しがる人はどこにいるか」
もちろん、それ自体は悪いことではありません。
しかし、その特徴を本当に顧客が重視しているかどうかは、別問題です。
メーカー側は「素材にこだわっていること」が強みだと思っている。
しかし、顧客は「価格」や「すぐ届くこと」や「使い方が簡単なこと」を重視しているかもしれない。
作り手は「高機能であること」をアピールしたい。
しかし、顧客は「迷わず使えること」を求めているかもしれない。
Ulwickは、顧客に「どんな商品が欲しいですか」と聞いても、顧客は解決策を答えてしまうことが多いと指摘しています。
だからこそ、顧客が本当に求めている成果、つまりdesired outcomesに目を向ける必要があると述べています。
これは、商品起点で考える場合にも重要です。
自社商品の特徴を見て、
「この特徴を欲しがる人は誰か」
と考えるだけでは不十分です。
むしろ、
「この特徴によって、顧客はどのような成果を得られるのか」
「その成果を、どのような人が強く求めているのか」
と考える必要があります。
競合と違うことが、そのまま差別化になるわけではありません。
差別化とは、単に違うことではないのです。
顧客が選ぶ理由になる違いでなければ、差別化とは言えません。
この視点がないまま商品特徴からターゲットを考えると、顧客の現実から離れてしまいます。
だからこそ、商品起点で考える場合でも、最後は必ず顧客に戻る必要があるのです。
実務では「逆算」と「検証」をセットにする
では、商品起点でビジネスモデルを考える場合、どのように進めればよいのでしょうか。
私は、次の流れが現実的だと思います。
まず、商品の特徴を事実として整理する

最初に行うべきことは、自社商品の特徴をできるだけ客観的に書き出すことです。
この段階では、強みかどうかを判断しすぎない方がよいです。
価格。
品質。
機能。
使いやすさ。
購入方法。
納期。
サポート。
デザイン。
信頼性。
専門性。
実績。
こうした要素を、まずは事実として整理します。
ここで大切なのは、「自社が言いたいこと」と「顧客が知りたいこと」を分けて考えることです。
自社にとっては大きなこだわりでも、顧客にとってはあまり関係がないかもしれません。
逆に、自社では当たり前だと思っていることが、顧客にとっては大きな安心材料になることもあります。
次に、競合商品と比較する
次に、競合商品と比較します。
ここで見るべきなのは、どちらが優れているかだけではありません。
顧客が比較しそうな項目において、自社がどの位置にいるのかを見ることです。
価格は高いが、サポートが手厚い。
機能は少ないが、初心者には使いやすい。
納期は遅いが、カスタマイズ性が高い。
ブランド力は弱いが、顧客との距離が近い。
このように、自社の立ち位置を確認します。
ビジネスでは、すべての項目で勝つ必要はありません。
むしろ、すべてで勝とうとすると、特徴のない商品になってしまいます。
どこで勝つのか。
どこでは勝たないのか。
ここを決めることが、戦略の第一歩です。
差別化できるKBFを仮説化する

競合との違いが見えてきたら、次にKBFを考えます。
ただし、ここでも注意が必要です。
KBFは、自社商品の特徴をそのまま書くものではありません。
「管理画面がシンプル」
「成分にこだわっている」
「専門家が監修している」
「価格が高い」
これらは、まだ商品側の表現です。
顧客側の言葉に変える必要があります。
管理画面がシンプル。
だから、専門知識がなくても使い始められる。
成分にこだわっている。
だから、安心して継続できる。
専門家が監修している。
だから、自分だけの判断に不安がある人でも使いやすい。
価格が高い。
だから、安さよりも失敗リスクを下げたい人に向いている。
このように、商品の特徴を「顧客が購買時に重視する理由」に変換していきます。
これがKBFの仮説です。
KBFの背景にあるJOBを考える
ここからが本題です。
そのKBFを重視する人は、なぜそれを重視するのでしょうか。
どのような状況にいるのか。
何に困っているのか。
何を避けたいのか。
何を達成したいのか。
ここを考えることで、JOBが見えてきます。
BettencourtとUlwickは、顧客のJOBを一つの大きな塊として見るのではなく、顧客が目的を達成するまでのステップに分けて考えるJob Mapを示しています。
これは、商品起点で考えるときにも使えます。
たとえば、顧客は商品を購入する前に、まず情報を集めます。
次に比較します。
購入します。
使います。
使った結果を判断します。
場合によっては、継続するかどうかを決めます。
この一連の流れの中で、どの場面に不満や不安があるのか。
どの場面で自社商品の特徴が役に立つのか。
どの場面で競合より選ばれる理由になるのか。
このように考えると、KBFとJOBの関係が見えやすくなります。
たとえば、「専門知識がなくても使い始められる」というKBFがあったとします。
このKBFを重視する人は、単に簡単なものが好きな人ではありません。
担当者が少なくても業務を回したい。
外注に頼らず、自社で管理したい。
導入に失敗して、社内評価を下げたくない。
短期間で成果を出したい。
こうしたJOBを持っている可能性があります。
つまり、KBFは入口です。
JOBは、その奥にあります。
KBFだけを見ていると、商品説明で止まります。
JOBまで見に行くと、顧客理解に変わります。
JOBを持つ人をターゲット仮説にする

最後に、そのJOBを強く持っている人をターゲットとして設定します。
ここで大切なのは、年齢や性別だけでターゲットを決めないことです。
もちろん、属性情報が不要という意味ではありません。
広告配信や販路選定では、年齢、性別、地域、職業なども必要になります。
しかし、事業設計の段階では、属性よりも状況の方が重要です。
たとえば、
「中小企業の経営者」
だけでは、まだ広すぎます。
それよりも、
人手不足で専門人材を採用できない。
しかし、業務効率化を進めなければならない。
失敗する余裕はない。
だから、専門知識がなくても導入でき、サポートが手厚いサービスを求めている中小企業の経営者。
と考えた方が、ターゲットは明確になります。
あるいは、
「30代女性」
だけでは、やはり広すぎます。
仕事と家庭の両立で、自分のケアを後回しにしがち。
しかし、不調を放置することには不安がある。
病院に行くほどかどうか迷っている。
だから、自宅で簡単に確認でき、次の行動を考えるきっかけになる商品を求めている女性。
このように、状況とJOBをセットで考えることで、ターゲットは具体的になります。
ターゲット設定は「誰か」ではなく「どんな状況か」で考える
ターゲット設定というと、つい属性で考えてしまいます。
30代女性。
子育て世代。
中小企業経営者。
地方在住者。
健康志向層。
もちろん、これらも間違いではありません。
しかし、同じ30代女性でも、抱えているJOBはまったく違います。
同じ中小企業でも、何を重視して購入するかはまったく違います。
重要なのは、誰かではなく、どのような状況にいる人かです。
誰が。
どのような状況で。
何を達成したくて。
何を不安に感じていて。
その結果、どのKBFを重視するのか。
この形で整理できると、商品起点でもかなり実務に使えるターゲット設定になります。
商品起点アプローチが向いているケース

この逆算型のアプローチは、特に次のようなケースで有効です。
すでに商品や技術がある。
競合商品が存在している。
売り方や訴求を見直したい。
事業計画や補助金申請でターゲットを整理したい。
営業資料やLPの訴求軸を作りたい。
顧客インタビューの前に仮説を作りたい。
つまり、ゼロから顧客課題を探索するというより、すでにある商品を市場に合わせて再定義する場面に向いています。
これは、実務ではかなり多いのではないでしょうか。
「顧客起点で考えましょう」と言われても、すでに商品がある。
「市場調査をしましょう」と言われても、まず営業資料を作らなければならない。
「ターゲットを明確にしましょう」と言われても、どこから考えればよいか分からない。
そうしたときに、商品特徴からKBFを整理し、そこからJOBを逆算する方法は、現実的な手順になります。
ただし、最後は必ず顧客に確認する
ここまで、商品起点でターゲットを設定する方法について考えてきました。
商品の特徴を整理する。
競合と比較する。
差別化できるKBFを策定する。
KBFから解決できるJOBを表面化する。
JOBを持つ人をターゲット仮説にする。
この流れは、実務上かなり使いやすいと思います。
しかし、最後に必ずやるべきことがあります。
それが、顧客への確認です。
そのKBFは本当に重視されているのか。
そのJOBは本当に存在しているのか。
そのJOBを持つ人は本当にお金を払うのか。
競合ではなく、自社商品を選ぶ理由になるのか。
購入を妨げる不安や障壁は何か。
ここを確認しなければ、ターゲットは仮説のままです。
近年では、顧客インタビューだけでなく、レビュー分析や口コミ分析から顧客の不満や未充足のニーズを抽出する研究もあります。
Namらは、ホテルサービスのレビューを分析し、Jobs to be Doneにもとづくcustomer outcomesを整理し、重要だが満たされていないニーズを発見する方法を提案しています。
これは、実務にも応用しやすい考え方です。
顧客インタビューをする。
営業現場の声を集める。
レビューや問い合わせ内容を見る。
競合商品の口コミを読む。
広告の反応を見る。
こうした情報を使って、自社が仮説化したKBFやJOBが本当に存在するのかを確認していくのです。
逆に言えば、商品起点で作ったターゲット仮説も、顧客に確認し、修正していけば、十分に使える戦略になります。
まとめ

商品起点でビジネスモデルを考えることは、決して間違いではありません。
むしろ、実務では商品や技術が先にあることも多くあります。
その場合、商品特徴からKBFを整理し、そこからJOBとターゲットを逆算するアプローチは有効です。
ただし、重要なのは順番ではありません。
重要なのは、最終的に顧客の現実にたどり着けるかどうかです。
商品特徴は、あくまで出発点です。
KBFは、顧客が選ぶ理由の仮説です。
JOBは、その選ぶ理由の奥にある目的です。
ターゲットは、そのJOBを強く持っている人です。
この関係を意識すれば、商品起点であっても、顧客不在の事業計画にはなりません。
顧客から始めることが理想であることは間違いありません。
しかし、商品から始まったとしても、最後に顧客のJOBへたどり着くことができれば、戦略は作れます。
大切なのは、どこから始めるかではなく、どこまで深く顧客を見に行けるか。
商品特徴からKBFへ。
KBFからJOBへ。
JOBからターゲットへ。
この逆算の流れは、商品を持っている事業者にとって、かなり実践的なビジネスモデル設計の方法になるのではないでしょうか。
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