「女性活躍」の陰で見落とされていること——地方と都市で、これだけ違う女性の健康課題と職場生産性

過労 女性

「女性活躍推進」という言葉を、ここ数年でずいぶんよく耳にするようになりました。

法整備も進み、各企業での数値目標の設定も義務化され、「女性管理職を増やす」「女性が働きやすい環境をつくる」という取り組みは、着実に広がりつつあります。それ自体は、とても大切なことだと思っています。

ただ、私が長く気になっているのは、こういうことです。

女性活躍を推進する議論の中で、「女性のからだ」の話が、あまりにも後回しにされていないでしょうか。

月経痛、PMS、更年期症状——こうした女性特有の健康課題が、毎月のように職場のパフォーマンスに影響を与えているにもかかわらず、それが経営の問題として取り上げられることはほとんどありません。本人が「仕方ない」と思い込み、周りも「女性ならよくあること」で済ませてしまう。その構造が、今も変わっていないのです。

そして、地方と都市ではこの問題の深刻さがさらに異なります。今回は、データをもとにその実態を整理してみたいと思います。

女性特有の健康課題による経済損失は、社会全体で年間約3.4兆円(経済産業省 2024年)。そのうち最大の要因は、欠勤ではなく「不調を抱えながら出社し続けること」——いわゆるプレゼンティーズムで、その損失は欠勤の20倍にのぼると言われています。そして地方と都市では、この問題への「対処できる環境」に大きな格差があります。

3.4兆円
女性健康課題の年間経済損失(社会全体)
20倍
欠勤よりも大きいプレゼンティーズムの損失
70%以上
管理職が「知らなかった」と回答
目次

「休んだ日」よりも、「我慢して出社した日」のほうが損失は大きい

痛みに耐える女性

 

経済産業省が2024年2月に発表した試算によると、月経随伴症・更年期症状・婦人科がん・不妊治療を対象とした女性特有の健康課題による経済損失は、社会全体で年間約3.4兆円にのぼります。

ここで大事なのは、この損失がどこで生まれているかという点です。

73万円
プレゼンティーズムによる損失
(従業員1人あたり・年間)
3.6万円
欠勤(アブセンティーズム)による損失
(同じ調査での比較)

プレゼンティーズムとは、体調が悪くても出社し続けることで生産性が低下している状態のことです。横浜市と東京大学の共同研究では、プレゼンティーズムの損失は欠勤の損失の約20倍という結果が出ています。

つまり、経営者が「欠勤」として見えているコストは、実際の損失のほんの一部に過ぎないのです。見えていない損失のほうが、はるかに大きい。これが現実です。

経営視点からのポイント: 月経サポートへの投資は「福利厚生」ではなく「生産性投資」として捉え直す必要があります。欠勤対策よりも投資対効果が高い可能性が十分にあるのです。

地方と都市——「女性活躍」の評価は高くても、からだのケア環境はこれだけ違う

配送ドライバー女性

 

「地方は女性が活躍しにくい」とよく言われますが、データはそれほど単純ではありません。パーソル総合研究所の「ニッポンのはたらく地図2025」によると、女性活躍の総合ランキングで高知県が全国2位、沖縄県が3位に入っています。有業率・管理職比率ともに全国平均を上回る地方県が複数あるのです。

ところが、「女性がからだの問題に対処できる環境」という軸で見ると、地方と都市の差は鮮明になります。

比較軸 地方 都市
女性活躍ランキング 高知2位・沖縄3位など上位県も多い 情報通信・サービス業集積地域が上位。賃金水準でも優位
婦人科へのアクセス 診療圏が広く、移動コスト・時間コストが高い クリニックが集積。オンライン診療・ピル郵送処方も普及
フェムテックの普及 情報接触機会が少なく、文化的なハードルも高い SNS・EC・メディア経由の情報接触が多く認知率が高い
産業構造 製造業中心の地域では女性活躍指標が低く停滞しやすい テレワーク・フレックスが普及。健康経営の導入企業が多い
健康経営の普及度 中小企業・地場産業では認知すらされていないことが多い 大企業主導で導入が進む。ただし月経対策まで踏み込む企業はまだ少数

出典:パーソル総合研究所「ニッポンのはたらく地図2025」/ NIRA総合研究開発機構 2025年 をもとに筆者整理

NIRA総合研究開発機構(2025年)の論考では、地方の女性にとっての「生きづらさ」——賃金格差・管理職比率の低さ・ジェンダー意識の差——が都市部への人口流出を促していると指摘されています。

高知が女性活躍で上位でも、婦人科に行きにくく、月経の悩みを職場で言い出せない環境が続いているならば、それは「活躍の土台」が整っていないということではないでしょうか。

地方経営に特有のパラドックス: 女性が「活躍できる土壌」はあるのに、からだのケアをめぐる情報格差がプレゼンティーズムを温存させ、生産性損失を固定しています。これは制度の問題ではなく、情報と文化の問題です。

管理職の70%以上が「知らなかった」——知識不足が損失を生み続ける

仕事場で体調不良に苦しむ女性

 

では、なぜこの損失が放置され続けてきたのでしょうか。最大の理由は、シンプルに「知らないから」です。

月経課題が生産性に影響することを「知らなかった・わからない」(管理職・経営者含む)
70%以上
都市・地方を問わず共通の意識ギャップです。地方では情報接触機会が少ないため、さらに深刻になりやすいと考えられます。(経済産業省「健康経営における女性の健康の取り組みについて」2019年)
女子大学生の低用量ピル服用率
30%
未使用者の主な理由は「正しい知識がない」ことです。都市でも低水準ですが、地方ではさらに低い可能性があります。(横田ほか CAMPUS HEALTH 2022年)
健康経営で月経・更年期サポートを実施している企業(概算)
少数
大企業でも対策は道半ばです。地方の中小企業・製造業では「健康経営」という言葉自体の認知が低く、フェムケアは議論の外に置かれていることがほとんどです。

「知らない」が連鎖する構造

月経の不調を「仕方ない」と受け入れる。受診やピルなどの選択肢を知らないまま放置する。症状を抱えながら出社し続ける(プレゼンティーズム)。組織の損失として拡大していくが、「見えない」ため誰も対策を打たない——。

この連鎖は、地方ほど断ち切りにくい構造になっています。なぜなら、情報が届きにくく、文化的ハードルも高く、婦人科に相談しに行く時間的・物理的コストも大きいからです。

地方の経営者・管理職が、今すぐできること

企業内カウンセリング

 

データを見ると、取り組みのハードルは実はそれほど高くないことがわかります。必要なのは、まず「知ること」から始めることです。

1
プレゼンティーズムのコストを、経営数字として見る
73万円/人という数字を「コスト」として経営会議に持ち込んでみてください。月経サポートへの投資を「福利厚生」ではなく「生産性投資」として位置づけ直すことで、議論のフレームが変わります。欠勤対策よりも投資対効果が高い可能性があることを、まず認識していただきたいと思います。
2
地方の産業構造と、フェムケアを接続して考える
製造業・農業が基盤の地方企業ほど、健康経営が手つかずのままコストが蓄積していることが多いです。地方創生・人口定着の文脈で、フェムテック導入を地域経営の戦略に組み込むことができます。自治体の女性活躍推進予算や地方創生交付金との連動も十分に設計できます。
3
情報格差の解消が、最もコストの低い一手
設備投資は要りません。研修・コンテンツ・受診サポートで、今日から着手できます。地方企業がフェムケアを先行して取り組むことは、人材確保・定着・ブランディングの面で都市部の企業に対する差別化要因になりえます。「地方だから遅れている」ではなく、「地方だからこそ先行できる」という視点を持っていただきたいと思います。
▌ この記事のポイント
月経不調によるプレゼンティーズム損失は1人あたり年間73万円。欠勤の20倍であり、経営上の最大リスクは「見えていない」ところにある
高知県は女性活躍ランキング全国2位だが、婦人科アクセス・フェムテック普及・健康経営の導入では都市と大きな差がある。「活躍できる」と「パフォーマンスを発揮できる」は別の問題だ
管理職の70%以上が「月経と生産性の関係を知らなかった」。知らないまま放置されることで損失が固定し続けている
フェムケアに先行して取り組む地方企業は、人材定着・ブランディングで都市企業に対する戦略的優位を獲得できる。設備投資は不要、今日から始められる

いつもご覧いただきありがとうございます。

今回のテーマは、私自身が銀行員時代から長く問題意識を持ってきた「女性活躍と生物学的ギャップ」の話です。制度や意識を変えることと同じくらい、からだのことを経営の文脈に乗せることが重要だと思っています。

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■ 参考文献・出典(確認日:2026年6月)
① 経済産業省「女性特有の健康課題による経済損失の試算」令和6年2月
② 横浜市・東京大学未来ビジョン研究センター共同研究(プレゼンティーズム試算)
③ 経済産業省「健康経営における女性の健康の取り組みについて」平成31年3月
④ パーソル総合研究所「ニッポンのはたらく地図2025レポート」
⑤ NIRA総合研究開発機構「女性活躍と年収の壁——女性の潜在力発揮と少子化対策を両立する社会へ」2025年
⑥ 横田仁子ほか「女子大学生における女性のヘルスリテラシーと低用量ピルに対する意識調査」CAMPUS HEALTH 2022年
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西谷 佳之|ゼロツー経営ラボ(Takeoff Partners)代表
0→2事業加速アクセラレーター / MBA(神戸大学大学院) / 株式会社エオストレ 代表取締役。地方銀行で約30年勤務し、1,000社以上の中小企業を支援。支店長として全店舗を表彰店に導く。その後、大阪大学でベンチャー創生に携わり、自らもフェムテックベンチャーを経営。大阪と高知を拠点に、起業直後の「1→2」フェーズに特化した伴走支援を行う。大阪大学等 起業教育 講師。
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西谷 佳之(Yoshiyuki Nishitani) 0→2事業加速アクセラレーター / MBA / 株式会社エオストレ 代表取締役 地方銀行で約30年勤務し、1,000社以上の中小企業を支援。支店長として全店舗を表彰店に導いた融資・財務のスペシャリスト。大阪大学でベンチャー創生に携わった後、自らも複数のベンチャー経営に参画。現在は、自社フェムテックベンチャーを経営しつつ、関西にて複数の大学非常勤講師として起業教育に携わる一方、大阪と高知を拠点に、「0→1」及び 起業直後の「1→2」フェーズに特化した伴走支援を行う。著書・寄稿多数。銀行員の「数字の目」と経営者の「現場力」で事業の生存率を高めている。
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