今回のブログでは前回に引続き、皆さんのプラットフォームから「顧客を減らさない」方法についてお話ししたいと思います。
前回はコミュニティ作りについてお話ししましたが、今回は、テクニック的な部分を少し学術的にお話しさせていただきます。
なお、前回同様に皆さんのプラットフォームの顧客やファンについては、便宜上まとめて「ファン」とさせていただきますのでご了承ください。
「顧客を減らさない」ソフトの方法
前回、ハードの方法としましたので、今回はソフトの方法を。
テクニック的な話と申しましたが、実はプラットフォームの運営側、つまり皆さんの側からうまく仕掛けをしていく方法についてをお伝えします。
いわゆる
「行動経済学」「行動心理学」「心理マーケティング」
といった分野の活用についてです。
ファンの習慣を作っていく
結論から申しますと、プラットフォームからファンが離れていかないようにするために必要なことは、
プラットフォームに存在することを習慣化
することなのです。
もちろん前回お話しした、コミュニティに属することも同じです。
ファンが最初に皆さんのプラットフォームにたどり着いた要因は何なのでしょうか。
もしかしたら友達の紹介だったのかも知れません。
偶然目にしただけなのかも知れません。
皆さんが努力して上げた検索順位が功を奏したのかも知れません。
そしてこれらの過程を経て、ファンが最初にすることは
「選択」
ですね。
商品を選ぶ・サービスを選ぶ・金額を選ぶ・支払い方法を選ぶ・受け取り方法を選ぶ
など、多くの選択がプラットフォーム上にて行われます。
「簡単な選択」の提供
しかし実はこの作業は2回目・3回目となるにつれ、誰もが億劫に思ってしまうものなのです。
皆さんは、ファンが製品を買おうとする要因は何だと思われますか?
消費者は製品やサービスの価値が高いほうを購入する。
商品の競争力は製品やサービスの価値の高さだ、と教わったのかも知れません。
本当にそうでしょうか。
より良いものにお金を払うのは当然だと考えますよね。
ところが、行動心理学の多くの研究から導かれた結果は違ったのです。
消費者の「買おう」という判断は、
製品やサービスの価値よりも
習慣と買いやすさに結びつく
というものなのです。
人は、良い商品が販売されていることはわかっていても、面倒なことはしたくないのです。
つまり、ファンをプラットフォームから離脱させないためには、いかに選択しやすいか(買いやすいか)を追求することが重要なのです。
ファンの選択しやすさを極めていくことが、ファンをプラットフォームに留める為に重要ですね。
「多少値段が高くても、いつも買っているところから買うとワンタッチですぐ欲しいものが買えるのでここで買うわ。」
「いちいち自分の住所や口座を登録したり、注意書きを読んだりするのはめんどくさいな」
このように思ったことは、皆さんでも多々あるのではないですか?
システム的にも、仕組み的にもシンプルにすることでファンを繫ぎ止めることが出きます。
つまり買いやすくなるということです。
そして買いやすいとまた買ってしまう。
やがて買うことが習慣となっていくのです。
選択より習慣 Facebook・Amazonの事例
企業が競争優位を持続するために、ファンを減らさないために行うことは、
ファンを「選択」ではなく「習慣」に向かわせることなのです。
Facebookは同様のサービスを提供するマイスペースと競争関係にありました。
マイスペースは、世界中に会員が存在する音楽・エンターテイメントを中心としたSNS型サイトであり、Facebookに抜かれるまでは英語圏で最大かつ人気のあるサイトでした。
しかし、現在はFacebookがダントツでトッのシェアを確保しています。
両社の戦略の違いが明暗を分けたのです。
マイスペースはFacebookより優位に立つべく、多くのサービスを提供し顧客の利便性を高める戦略を取りました。
「インスタントメッセージ」
「求人広告」
「音楽プレーヤー」
「プロフィール編集ツール」
「セキュリティシステム」
など本当に多くの便利ツールを提供したのです。
ものすごく画期的なサイトとなりました。
一方、Facebookはあくまでシンプルにこだわりました。
一貫性にこだわり、ユーザーもそれに従うしかない状況を作り出したのです。
PC版からモバイル版へと拡張した時も、ユーザーがどちらでもほぼ同じ経験が出来るようにしたことは有名な話です。
そして選ばれたのはFacebookですね。
マイスペースは顧客に選択を与え、Facebookは習慣を与えたのです。
必ずしも便利なことに顧客価値があるとは言えないのですね。
Amazonはアマゾン・ダッシュボタンという機能を提供しています。
これは、顧客が頻繁に使う製品を再注文する簡単な方法を作り出して
顧客の「習慣づくり」を行い、
離れれないような仕組みを作っているのです。
ジャムの法則
さらに、身近な研究事例をもとに、顧客を離さない仕組みについてお話ししましょう。
行動経済学では「選択のパラドックス」という理論があります。
人は選択肢が多いほど自由度が高く満足を得られると思われがちですが、
実は選択肢があまりに多いと人はストレスを感じてしまうということです。
まさに、先述のマイスペースの状況ですね。
これらを説明するのに「ジャムの法則」という研究結果があります。
米国コロンビア大学で、売店にジャムの試食ブースをつくり、
24種類のジャムと6種類のジャムを数時間ごとに入れ替えて提供し、
顧客の購入について調べたのです。
結果として、24種類並べた場合、3%の顧客しか購入しなかったのですが、
6種類並べた場合は30%の顧客が購入に至ったというものです。
人は選択肢が多いと、失敗や後悔を恐れて心に迷いが生じ、ストレスや無力感を感じてしまうのです。
こういったことからも、習慣化に目を向ける必要性を感じていただけると思います。
コントロールへの欲求
習慣化が重要なことはお分かりになったと思いますが、進め方にもコツが必要です。
スウェーデンで行われているナッジ(行動経済学)の例をご紹介しましょう。
健康促進の為にスウェーデン政府は国民に「エスカレーターを使わず階段を利用するように」と呼びかけました。
ところが、階段の利用はまったく進まず、むしろエスカレーター利用者が増える結果になったのです。
スウェーデン政府は困り果てた挙句に、ナッジを取り入れることにしました。
その手法は、階段にピアノの鍵盤の絵を描き、踏むと音が出るようにするというものでした。
すると、エスカレーターよりも階段を利用する人がどんどん多くなっていったそうです。
人は強制されることを非常に嫌います。
人は周りの状況を思うように動かしたいという欲望(コントロールの欲求)を持っており、それが心理や行動に大きく影響します。
欧米では政策に行動経済学の「ナッジ」をよく使います。
本ケースもナッジを上手く利用したケースですが、コミュニティに関しても同じことが言えます。
離脱を防ごうとすることに注力すると、かえって離脱させてしまう可能性があるのです。
こういった観点からも、上手く習慣化を即しファンが自発的に離れない仕組みづくりに注力する必要があるのですね。
前回のブログでお話ししたハード面のコミュニティ作りを行い、そのコミュニティに今回のソフト面である習慣化を組み入れることで、ファンが離れられないプラットフォームにすることが可能なのです。
前回ブログ
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宝塚歌劇団にみる『顧客を減らさない』離れられないプラットフォームにするための方法
顧客を増やす or 減らさない 減らないプラットフォームの作り方 多くの企業から個人経営者まで、顧客もしくはファン(以下 便宜上総じてファンと呼びます)の獲得と同じくらい、むしろそれ以上に大事なのは ...
テイクオフパートナーズ代表
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西谷 佳之
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