MBA ファンディングアドバイザー 西谷佳之

金融機関経験を活かした中小企業の創業・経営支援

経営

あなたの会社に制服は? 導入のタイミングで考える日本人の思考と制服の意外なメリット

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制服を作ろうかどうしようか

もしあなたが個人で起業し、事業が大きくなり従業員が増えてきたとすれば、
「わが社も制服を作ろうかな?」と頭をよぎるタイミングが来るのではないでしょうか。

そのような方への参考になればと思い、今回は「制服」を取り上げてみました。

日本は制服大国だと言われています。学生だけでなく企業にも制服が広まっています。
バブル崩壊後 一時制服廃止の方向に向かったのですが、近年は改めて制服が復活してきています。

オフィスカジュアルが流行った時代もありましたが、(株)ウィルオブ・ワークが2015年10月に女性対象に
「事務職員として働くなら、制服とオフィスカジュアルどちらが良いか」
というアンケートを取った結果、制服が良いという回答が73であったということです。

制服の効果

制服を導入する効果については、学術論文をはじめとし いろいろなところで取り上げられていますが、だいたい次のようなことが言われています。

○ 同一集団としての認知性・識別性
着用によって所属する企業の人間であることが内部からも外部からもわかります。会社や職業がわかり(ナースウエアなど)、制服によって外部からのイメージをコントロールすることもできるのです。

○ 仲間意識の醸成
同じものを着用することで同じ組織の一員としての意識が芽生えます。外部から集団としてまとまりがあると認知されることで(この度合いを集団実体性といいます)さらに仲間意識が高まるのです。また、その結果粗悪行為の防止にも繋がります。

○ ブランド構築
経営者の意図を言葉以外で伝える手法にもなります。そして、会社の文化やイメージを外部に伝える手段となります。
シンガポール航空の民族衣装を生かした制服などは、航空会社のブランド構築に大きく役立っています。

○ モチベーションアップ
特に裏方の作業を行う従業員の制服を目立つ色にした途端、モチベーションが上がり 作業効率が上がったという話を聞きます。
また、企業ブランドの制服を着用していることでモチベーションが上がる例も多々あります。

○ 安全性
工場で働くワーカーなどの制服は、動きやすい機能をそなえたり、保温効果を高めたりすることで事故や怪我、病気を防ぐツールとなります。
また、色によって従業員や顧客の心理に働きかけることも可能です。(赤い生地は活力を感じさせる。青い生地は集中力を高めるなど)

制服廃止運動の背景

1986年男女雇用機会均等法が施行された後、「事務服」が男女差別の象徴として取り上げられたことあたりから、日本で制服廃止運動が広まってきました。

従業員にすれば、デザインや統一性に対しての反感もあったでしょうが、さらにワンパターンのデザインであったり、当時は生地のバリエーションにも乏しく着心地もさほど良くなかったことも要因としてあったでしょう。また、接客しないのなら見た目は気にしなくていいのでは?といった意見もありました(事務服)

一方企業側としても、制服を導入することは 制服を支給する経費もしかり、更衣室のスペースを作ったり、採寸などの時間汚れ破れなどの対応などコストがかかることから、経費削減の一環として制服を廃止していった経緯があります。

制服復活の背景

制服が復活してきた背景として、着用者がオフィスカジュアルのデメリットを認識してきたことが挙げられます。

一時 制服に代わりオフィスカジュアルが流行しました。自分の好みの服が着れることなどから女性のニーズも高く、さまざまな洋服ブランドが手がけました。
ところが、着用者からは

「毎日服を決めるのが面倒くさい」
「お金がかかる」
「周囲の視線を気にする必要がある」
「なんだか気持ちが緩む」

といった声が聞こえてくるようになり、今では冒頭のアンケート結果のように7割の女性制服賛成派となっているのです。

企業としても制服導入の効果は十分に理解していることから、制服にバリエーションを増やしたり(スカートだけでなく、パンツやキュロットも選べるようにする)、デザイン性を重視したりしたこと工夫を凝らしています。

日本人は制服好き

日本人が制服好きなのは、日本文化が影響していると言われています。
日本人は飛び抜けて個性的なことを好みません。グループ意識が非常に強いことが制服の導入につながっているようです。

一時制服が廃止傾向となったのですが、一方で増えてきたものは「擬似制服」でした。
(オフィスカジュアルもその一つかもしれませんね。また、スーツも擬似制服と言えなくはないです)

たとえば、「お受験スーツ」などが良い例です。個性を出そうとする一方で、
「異分子に見られたらどうしよう」
「服の印象が悪くて落ちたらどうしよう」
などの感情が、スタイルを横並び化させ 擬似的な制服を作り出していくことになったのです。

失敗回避思考
個性埋没思考

こういった感情は日本人には強く、その結果制服が浸透しやすい状況となっているのですね。

制服のステレオタイプ

さらに、制服から離れられない要因として、制服のステレオタイプ(固定概念)があります。

たとえば、あなたは【スーツ姿の医者】【白衣の医者】どちらが信頼できるでしょうか。

【ジーパンとTシャツの医者】ならどうでしょうか。

作業着の銀行員はどうでしょうか。短パンの弁護士

業種によって服装もステレオタイプがあることはお分かりいただけると思います。
そのステレオタイプ企業や個人を合致させるために制服は一役買っているのです。

【私が銀行員時代、男性は当然制服がなかったのですが、色の濃いスーツを着る必要がありました。これも銀行員のステレオタイプ、いわゆる擬似制服ですね。特に指示されたわけではないのですが、少し派手な服装になると上司から怒られたりしました。「女性は制服が支給されるのに、なぜ男性は自腹でスーツを何着も買わないといけないのだろう。」といつも思っていました。同じような仕事でありながら制服があった郵便局を羨ましく思ったものです(笑)】

ジョブズも認めた制服文化

とはいえ、制服は日本人の独自文化というわけではありません
ただ海外ではその国の文化が邪魔をして制服のメリットを享受できない場合もあるのです。

アップル社のスティーブ・ジョブズの有名な話があります。
ジョブズが黒いタートルネックを着ている写真をよく見かけますが、実はあれは日本からヒントを得たスタイルだったのです。

1980年代はじめ。ジョブズがソニーを訪問した時に不思議に思い「なぜソニーの工場では全員同じ服を着ているのか?」と盛田会長に質問しました。
盛田会長は「戦後はみんな服もろくに持っていなかったから会社で用意したのが始まりだけど、そのうち制服は会社独自のスタイルに発展していき、特にソニーのような会社では 社員を結びつけるものになったんです」と回答したそうです。

ジョブズは「そういう結びつきがアップル社にも欲しいものだ」と思い、ソニーの制服をデザインしていた三宅一生氏に連絡し、ソニーと同じような機能性の高いベストをいくつか作ってもらい、アップル社内で全員に提案したというのです。

結果、アップル社では大ブーイングとなり導入は見送られたのですが、ジョブズは制服があったほうが毎日便利だし、制服を通して自分だけのスタイルを人に伝えることができると、その後も三宅一生氏と交流を持ち、制服談義に花を咲かせたそうです。その結果生まれたのがジョブズの黒のタートルネックだそうです。

ジョブズの代名詞でもある黒のタートルネックは、実はジョブズ一人の制服だったんですね

そんなアップル社も今はアップルストアなど接客の発生する職場では同じ制服を導入しています。

制服の効果的な使い方

制服を導入することでの効果は先ほど述べましたが、さらに有効な使い方があります。

それは、企業イメージを即時に一新できることです。

企業イメージを一新することは非常に難しいことです。当然企業に対する今までの固定概念もあります。

オーナーが声を上げて「今から会社のイメージを大きく変える」と言ったところで、いくら取材をうけたところで、
周囲から抱かれているイメージはなかなか変わりません。

ところが実は制服を変えると企業イメージを大きく一新できるのです。

たとえば、今まで黒いスーツであった企業が、急に全員白いスーツになったらどうでしょうか。良いも悪いもイメージは大きく変わるでしょう。

スカイマークが制服をミニスカートにすると発表し物議を醸し出したこともありましたが、企業のイメージは制服で大きく変えることができるのです。

制服を逆手に取った戦略

さらに意外な制服の活用ですが、実は自社ではなく制服を導入している企業へのアプローチに使うことが有効なのです。

銀行員時代に実際に顧客企業からお聞きした話です。

実はその企業、新規ターゲット企業にアプローチするも、何の情報得れず困っていました。工場に入る許可は得れたのですが、ニーズが発掘できず提案案件が作れなかったのです。
ところが、工場に入る時の作業服をターゲット企業の作業服の色と同じにしたところ、先方の従業員から声がかかり出したそうです。

フォルトライン理論

経営学には「フォルトライン理論」というものがあります。1998年に提唱された比較的新しい理論です。
一つのグループにおいては属性の違いによって潜在的に複数のサブグループに分かれているというもので、その境界線のことをフォルトラインと言います。

たとえば日本人20代男性3人とフランス人30代女性3人のグループがあります、このグループは潜在的に男性と女性3人どうして固まってしまいコミュニケーションに障害をもたらします。

男性と女性の間にフォルトライン(境界)が存在するのです。では、どうすれば良いのでしょうか?

このグループにアメリカ人30代男性40代中国人女性を入れることによって違う次元が入り込みフォルトライン(境界)がなくなりグループ内のコミュニケーションが円滑に進みます。

このように次元を薄めてしまうことでグループの垣根が低くなるのです。ダイバーシティの研究でよく使われています。

企業×制服で属性が出来、一体化していることが制服導入の狙いでもありますが、他社からみるとそのグループに入るには障壁が非常に高くなのです。

制服に着目し、色や形を近づけることによって障壁が低くなるということは学術的にも有効な手段なのです。

その企業は、その後も新規アプローチは対象企業の制服に近い格好で行うことにしているとのことです。

このような話は他にもいくつか聞きました。制服は導入企業の文化を表します。一体感が出ることも制服の効果の一つです。
それは逆に他社と一線を画しているとも言えます。

垣根を取り払い友好的になる手段として相手の制服を利用することは、実は意外に有効な戦略なのです。

 

自社的にも戦術としても制服を上手く活用してほしいと思います。

 

 

 

 

 

テイクオフパートナーズ代表
MBA
2級知財管理士
2級ファイナンシャルプランナニング技能士

西谷 佳之

 

いつもご覧いただきありがとうございます。

 

他各種ビジネスセミナー、個別コンサルタント等を賜っております。

過去講演題目(抜粋)

・スモールベンチャーファイナンスのリアル
・ドラマ「陸王」から紐解く 経営ビジョンが叶える会社の生き方
・オープンイノベーション推進におけるクラウドファンディングの活用について
・銀行から融資を受けるポイントとは
・財務分析の勘所
・女性のためのクラウドファンディング
POC手段としてのクラウドファンディング
・クラウドファンディングと社会的インパクト投資
・資金調達ツールとしてクラウドファンディングの使い方
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大阪生まれ 神戸大学大学院経営学研究科修了(MBA) 大学卒業後地方銀行勤務。支店長として約10年 4ヶ店 勤務し、推進部地域創生室を経験後、大阪大学産学共創本部に身を置き、特任研究員として大学発ベンチャーの創生に携わる。 東京にてベンチャー参画しIPOを目指した後、大阪にて大学発遺伝子解析ベンチャーのCFOとし経営に参画した経験を持つ。 中小企業支援をライフワークとし、テイクオフパートナーズを立上げており、企業支援の傍ら、セミナーなどを通じ起業志向大学生をサポートすることで新しい事業創出の一助を担うことをライフワークとしている。 現在はスピンアウトして起業、自ら手掛けたフェムテック事業の展開を図り、かねてから問題意識を持っていた女性の社会進出の一助を担うことを目標としている。

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