・施策と数値目標は外枠でしかない
厚労省が令和6年3月に発表した 「女性活躍と月経、不妊治療、更年期等に関する施策及び現状について」 によると、
女性の月経随伴症による年間経済損失は年間 5,700億円
(うち、欠勤による 1,200億円 パフォーマンス低下による 4,500億円)
と試算されています。
これらの経済損失の額を減らすことで、企業の利益にも繋がることから、
企業の多くは、女性の活躍を促進するための施策や数値目標を設定しています。
しかし、これらはあくまで外枠に過ぎず、実際の職場環境や文化の変革なしには、
施策が機能しないことを理解する必要があります。
ガラスの天井を取り払ったとしても、管理職になりたがらない女性職員が減らないことや、
生理休暇の取得率が増加しないことも、環境や文化が影響しています。
・施策は男女平等目線で設定されている?
多くの施策は、女性が男性と同じ機会を与えられ、キャリアを継続できるように考慮されています。
これらは一見、男女平等の視点から設定されているように見えます。
しかし、男女の違い(特に生物学的な違い)を考慮せずに平等を追求することは、
一方的に男性並の働きを女性に強いることになっているのではないでしょうか。
つまり、多くの女性活躍施策は、 男性のような働き方を標準とした制度改革、施策設定になっており、
逆に不平等を生むことになっているのではないかと思うのです。
例えば、月経痛に対する理解不足や対策が不足している職場では、 女性が十分にパフォーマンスを発揮できない状況にも関わらず、
制度として昇格への道が開かれ、男性並の働き方を強いられていることになります。
・男性は会社で働くものという潜在的な思い込み
多くの企業施策は、体調のブレ(ホルモンバランスのブレ)が少ない、男性の働き方をスタンダードな働き方とし、
そこに女性を「はめ込む」ような形になっていることに気づきます。
「男性は会社で働くもの」という潜在的なステレオタイプは、 女性がリーダーシップポジションに就くことを妨げる要因となります。
これを打破するためには、女性が女性のタイミングで能力を発揮できる環境を整えることが必要です。
・女性が男性並みに働くこと
しかし多くの職場では、女性活躍施策として、女性は男性と同じ働き方を求められます。
これは、企業が急な離席や、長期の離職を想定した運営形態になっていないことから、
現状はある意味やむを得ないのかも知れません。
本来は、男性の働き方のみをスタンダードにするのではなく、 月経痛や妊娠・出産といった生理的な違いを考慮した、
継続勤務を前提としない、女性特有の働き方を導入し、 ダブルスタンダードで運営することが求められるのですが、
少なくとも、女性特有の症状の影響を抑え、女性が男性と同じようなパフォーマンスを 発揮できる日数を増やしていくことが、
施策が機能するポイントではないでしょうか。
・女性の敵は女性
女性特有の働くための制度を導入しようとする、している企業は多数あります。
しかし、たとえば生理休暇などの取得率増加は頭打ちのようです。 もちろん本人が気兼ねして取得しづらいという理由もあります。
一方で、本来味方である女性管理職のサポートを受けづらいという理由も多いようです。
これは、月経痛など女性特有の症状は個人差が大きいことが理由として挙げられます。
「自分は我慢して勤務を続けた」という女性管理職からすれば、 「これくらいのことで」と思う気持ちもあるのでしょう。
日経BPの『働く女性のウェルビーイング環境アンケート2022』では男性管理職87名、女性管理職71名に
「症状がひどくないのに生理休暇を使っている女性が職場にいると感じる」とアンケートを行いました。
その結果、男性管理職14.9% 女性管理職25.4% がYesと回答したのです。 女性管理職の4人に1人が、そのように感じているようです。 出所:『働く女性のウェルビーング環境アンケート2022』/『ウェルビーング向上のための女性健康支援とフェムテック』(日経BP)
これを解消するためには、女性自身も、症状の個人差があることを認識し、重い症状に理解を示すことが必要です。
性教育が十分でなく、女性特有の症状について口外することを良しとしない日本では、 女性自身が知らないことも多く、
女性の意識改革や知識レベルのアップも必要なのです。
・女性自身も知らないフェムケアや月経痛対策
実は、多くの女性が月経痛やフェムケアについて十分な知識を持っていません。
ILACYが2023年に行ったアンケートによると、フェムゾーンケアに関心がある女性は48.6%、
フェムゾーンケアの適切な方法を知っている女性は全体(1,000名)のうち たった7.8%しかいないという結果が出ています。
また、月経痛は我慢するものとしてとらえている女性が多く、 多くの女性は我慢して乗り越えているようです。
月経痛についても、コントロールすることが出来ることや、 コントロールすることで症状が大きく変わることを知らず、
「我慢する」という選択肢を選ぶしかない女性も多くいます。
たとえば、月経に関して否定的な女性は、肯定的な女性に比べて、 月経痛が重い傾向にあることが、研究結果として示されています。
これを解消するためには、教育や情報提供が不可欠です。
・生物学的なギャップの解消が鍵
企業の施策が男性の働き方、もしくは身体の不調が一切ないとした人間の働き方をを基準として、
そこに合わせられるように策定されているとすれば、 女性特有の健康課題は、求められる基準の働き方をするうえにおいて、
あきらかに足かせとなるでしょう。
企業の女性活躍施策を機能させるためには、男女間の生物学的なギャップを理解し、
それを解消するための対策が必要です。これには、女性の健康問題に対する理解やサポート体制の強化が含まれます。
・まずは知識を得ることと認識の変化
最も重要なのは、知識を得ることと認識を変えることです。
特に女性が女性自身のヘルスリテラシーを高めることは急務だと考えます。
企業全体で女性の特有のニーズや状況を理解し、それに応じたサポートを提供することと並行して、
女性が自分自身で自分の身体を、特有の症状を我慢するのではなくコントロールすることで、
真の意味での女性活躍推進が可能になると考えます。
・結論
企業の施策の稼働率を上げるためには、施策や数値目標だけではなく、
女性特有の症状への理解と、女性自身が前向きに捉えることができる 職場環境や文化の根本的な変革が求められます。
日本の性教育の遅れから、多くの女性の正しい知識が不足し、 間違った知識に縛られています。
企業は男性並みに働くことを求めるだけでなく、生物学的性差を理解し、 その差を埋める努力が必要です。
そのためには、まず女性自身の女性特有の症状に対する知識と理解、 考え方を変える為の対応をすること。
それだけでも、症状の緩和、パフォーマンスの向上に繋がるという研究結果があります。
それを男性にも広げ、組織として理解し根付くようにすること。
その上で、無意識のジェンダーギャップを解消し、女性が生理的・社会的なニーズに応じた働き方を 実現できるようにすることが、
企業の女性活躍を推進する鍵となるのです。
いつもご覧いただきありがとうございます。女性向け月経痛コントロールのセミナーを始めました。 その他各種ビジネスセミナー、個別コンサルタント等を賜っております。 講演・セミナー実績 ・大阪産業局 ・大阪大学 ・神戸大学 ・岡山大学大学院 ・四天王寺大学 ・山門青年会議所 ・北九州青年会議所 ・東京中小企業同友会 ・ジャパンテクノロジーグループ 他
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