MBA ファンディングアドバイザー®西谷佳之

金融機関経験を活かした中小企業の創業・経営支援

ネゴシエーション 戦略

ネゴシエーションでは7つの落とし穴に気をつける

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交渉下手な日本人

日本人は世界の中でも交渉が下手だと言われています。

その要因は本当に多くありますが、日本の国民性によるところが大きいような気がします。

日本人は、「推して知るべし」という考え方をします。全部言わなくとも察するといった文化ですね。
逆に自己主張が強すぎると「自分のことばかり言って鼻に付く」といった風に思われ、敬遠されやすいのです。

このような考え方もあってか、世界では 日本人は自己主張をしないNO」と言わないと言われています。
それは、裏を返せば「NO」と言われたくないのです。
さらに日本人は、常に相手のことを考えていますが、相手も同じように こちらのことを考えてくれていると、なぜか思っています。

なので、交渉では無難な落としどころを探ってしまう傾向にあるのです。

よくあるたとえですが、3個1,000円の商品のリンゴを800円で買うために、「じゃあまずは500円くらいで交渉すれば、相手が800円前後の数字を出してくるだろう」という、意味のない根拠をもとに動いてしまいます。

日本人の交渉戦術

そもそも日本人は、交渉に戦術を使うということについて良いと思っていません。
「卑怯だ」というイメージを持っています。
相手を騙すという考え方につながるのでしょうか。

なので、どうしても相手の出方をうかがってから交渉戦術を決めていく傾向が強いのです。
これでは、相手のペースで交渉することになってしまい、受け身にならざるを得ません。

交渉において、日本人は非常に不利な状態からのスタートに陥りやすいのですが、これは「話せばわかってもらえる」という聖人君子のような考え方が、そういった状況をいとも簡単に招く要因になっているのです。

日本人の交渉は汎用性がない

交渉を学問として、また戦術として捉えている海外では、早くから「ネゴシエーション」という分野が研究され、学ばれています。

ところが日本では交渉スキルを学問として学ぶ場はほとんどありませんでした
先述のとおり、日本では文化的に馴染まなかったのでしょう。

しかし、日本でも交渉は、昔からあらゆるところで日常的に行われています。
そして、日本人は個別にそういった交渉に対応してきました。

従って日本人の交渉の多くが、それぞれが自らの経験のみに基づいたアプローチに留まっています。

これらの交渉戦術は、自分が経験してきた分野では対応できますが、ワンパターンであり、かつ他の分野では全く通じない、汎用性の低い交渉戦術なのです。

交渉に対する誤った考え方

特に日本人の多くが「交渉とは勝つか負けるか」と考えてしまっています。

しかし、交渉の基本的な考えは

・相手との関係を壊さずに
・双方にとってより良い
・実現可能な賢い合意を効率良く得る

ということなのです。
これはハーバード大學のロジャー・フィッシャー教授らが提唱し、関係構築型交渉術と言われています。

交渉は勝つか負けるかの駆け引きという誤解が、日本人を交渉下手にしてしまっているのです。

まずは誤解を解くことから始める必要があります。

交渉に潜む心理的な落とし穴

これらのことを理解した上で交渉に臨んでいただきたいのですが、いざ交渉の席に着いた時に、相手はいままで述べたような誤解を持ったまま、いわゆる敵対的な交渉を進めてくる可能性があります。

交渉での心理的な落とし穴は7つあります。

パイの大きさは決まっていると思い込んでいること

アンカリング(相手の土俵に乗ってしまう)

行動のエスカレーション(はじめにとった行動を変えられなくなる)

フレーミング(枠付け作用)

情報の誘惑(手に入る情報に縛られる)

勝者の呪縛(それは本当に勝ちだったか)

自信過剰(希望、幻想、期待)

この中で、あなたが交渉の席に着いた時に、特に勘違いしてしまいやすいポイント「フレーミング」について簡単に説明しましょう。

交渉で気をつけるべき「フレーミング」

交渉において陥りやすい落とし穴である「フレーミング」にはいくつかの種類があります

状況のフレーミング

① あなたは、新しい時計を70ドルで買おうとしています。その時、あなたの友人が通りかかり、km先の店で、同じ時計が40ドルで売っていることを聞きます。店の信用度やサービスは全く同じです。あなたは30ドル節約するために1km歩きますか?

② あなたは、新しいビデオカメラを800ドルで買おうとしています。その時、あなたの友人が通りかかり、km先の店で、同じビデオカメラが770ドルで売っていることを聞きます。店の信用度やサービスは全く同じです。あなたは30ドル節約するために1km歩きますか?

ノースウェスタン大學での実験で、これら2つの質問が行われたところ、
①の質問では90%のマネージャーがkm歩くと答えました。
ところが、②の質問ではkm歩くマネージャーは50%しかいませんでした。

なぜこのような結果となったのでしょうか。30ドル節約のために1km歩くことに変わりはないのです。

また、行動経済学でノーベル賞となったリチャード・セイラー教授も同じような研究をしています。

あなたは暑い浜辺で優雅に寝そべっています。水は持参しているのですがそろそろビールが飲みたい。そんな時友人が近くにビールの売っている「豪華なリゾートホテル」があることを聞きつけ、ビールを買いに行ってくれることになりました。そしていくらまでならビールを買うか?と尋ねました。

あなたは暑い浜辺で優雅に寝そべっています。水は持参しているのですがそろそろビールが飲みたい。そんな時友人が近くにビールの売っている「崩れそうな小さな雑貨店」があることを聞きつけ、ビールを買いに行ってくれることになりました。そしていくらまでならビールを買うか?と尋ねました。

これらの質問では、同じビールにもかかわらず
①の場合は(平均ドル83セント)
②の場合は(平均ドル10セント)
と値段に大きな開きが生まれてしまいました。

背景が変われば結果に大きく影響するのです。

結果へのフレーミング

状況以外に結果に対してのフレーミングもあります。
具体的な研究のポイントをお話します。

前提条件は、600人死亡する疫病に対する対策についてを政府が検討している。
対策案AとBについて、どちらを支持するかという質問です。

甲の研究
① 対策Aが採用された場合、200人が助かる
② 対策Bが採用された場合、3分の1の確率で全員助かり、3分の2の確率で全員助からない

乙の研究
① 対策Aが採用された場合、400人が死亡する
② 対策Bが採用された場合、3分の1の確率で誰も死亡せず、3分の2の確率で全員が死亡する

甲の研究では158人の回答者のうち
対策Aを選んだのは76%対策Bを選んだのは24%

乙の研究では169人の回答者のうち
対策Aを選んだのは13%対策Bを選んだのは87%

という結果になりました。

言い方は少し違いますが、言っている事は同じなのです。
対策Bの質問は、リスク性を表現した質問です。
甲の研究の場合、200人が助かるという情報によって、リスクをとることに対して消極的になり
同じ事ながら、乙の研究の場合、400人死亡するという情報が回答者のリスクに対して積極的にさせたということです。

これらのことから、人の判断は些細ない言葉や状況によって左右されるということがわかります。
金額の大小なのか、「豪華なリゾートホテル」なのか「崩れそうな小さな雑貨店」なのか、生存数なのか死亡数なのか。
自分への影響は同じでも、選択は変わってしまいます。

交渉の相手が敵対的だった場合、あなたの答えを特定の方向に誘導しようとしてくるかも知れません。
惑わされないようにすることも必要ですね。

「フレーミング」や、次に述べる「アンカリング」や「授かり効果」「ハロー効果」などは以前のブログでも紹介しています。
そちらもご参照いただければと思います。

クラウドファンディングで共感を得る為に知っておきたい顧客心理(ナッジ理論に学ぶ)

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フレーミングに影響を与える行為

「フレーミング」(枠付け)に影響をあたえる行為として「アンカリング」があります。

「アンカリング」とは、交渉者が最初の提示条件によって、相手に「フレーミング」を与える行為です。

たとえば値引き交渉の場合であなたが値引きする側だとします。
相手は自社の商品を一手に売りさばいてくれる業者です。
主力商品の利益率が非常に高いとリークがあったようで、相手は怒って価格交渉に来ました。

定価100円の商品(原価30円)の商品に対して、相手がいきなり80円の値引きをしろと言ってきたとします。
(値引き後価格は20円です)

さて、あなたは どれくらいの値引きを頭の中で想像されましたか?

「いや、原価が30円なんだからそれは無理だ!何を考えているのか!」

と思いますよね、ふつう。
問題はそのあとです。

「値引き後価格が30円だと利益が0だから、最低でも値引き後価格は30円以上だ」

「でも今は粗利益が70円もあるのだから、利益を半分ずつとして、
原価30円+利益35円=65円くらいが妥当かな」

などと考えたのではないでしょうか。

ところが、相手が値引き額を50円と言ってきたとしましょう。(値引き後価格は50円ですね

「相手が50円得をするということは、自分たちは現状より50円損をするのだから、そこは半分ずつとして値引き25円、値引き後価格75円でどうだろうか」

といった風に考えるかもしれません。

つまり、相手の提示した金額が基準となって、最終的な結論の落とし所が変わってきてしまうのです。

値引き交渉の場合など、最初の言い値を思い切って安く言ったほうが、逆のケースに比べて、最終的な妥協額は安くなる傾向にあります。

ただし、アンカー(条件)には根拠が必要であり。あまりにも根拠の無いアンカーを使う人たちは信用されるわけはありません。

「授かり効果」「ハロー効果」

「アンカリング」のほかにも、フレーミングに影響を与える概念や方法があります。

「授かり効果」とは、人は自分が手にした(所有した)ものを高く評価し、手放したく無いと思う傾向にあるということを言います。

ある物を販売する場合、一旦自分が所有したものは、しなかったものより販売価格の設定額が高くなるという実験もあります。

「ハロー効果」とは何かを評価する場合に、特定の評価が高いと感じると、別の効果も高く感じてしまうということを言います。

たとえば、
・英語を流暢に話せるビジネスパーソンは優秀なビジネスパーソンだと評価してしまう。
・卒業大学が有名大学だと、ビジネスパーソンとして優れていると評価してしまう。

などです。どちらも、通常のビジネスには直接関係は無いのですが、根拠なくそのイメージに引っ張られてしまうことですね。

自分がどれくらい影響を受けているのかを見極める

合理的に交渉を行うために、「フレーミング」や「アンカリング」「授かり効果」「ハロー効果」などに自分がどれだけ影響を受けているかを冷静に見極めることが必要です。

それ以外にも、「パイの大きさは決まっている」という迷信に陥っていないか?
手に入りやすい情報だけに左右されていないか?
もっと言えば、
「勝つか負けるか」といった姿勢になってしまってい無いか?

なども重要なポイントですね。

交渉とは本当はお互いにメリットのあるものです。

 

みなさんも交渉をうまく使って欲しいと思います。

交渉についてはこちらのブログもご参照ください

女性は交渉が不得意?女性経営者が交渉を上手くする5つのポイント

そもそも交渉にジェンダー差はあるのか 多くの女性が「交渉が苦手だ」と思っているようです。 本当にそうなのでしょうか。 ハーバード大学らが行った研究があります。 一流ビジネススクールの新卒MBAの男女に ...

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西谷 佳之
大阪生まれ 神戸大学大学院経営学研究科修了(MBA) 大学卒業後地方銀行勤務。約10年 4ヶ店の銀行支店長経験後リレーション推進部地域創生室を経験し、大阪大学産学共創本部特任研究員として大学発ベンチャーの創生に関わる。 一方で、中小企業支援をライフワークとし、テイクオフパートナーズを立上げ。銀行ではほぼ全ての期間で法人取引を担当した経験や、支店長として着任したすべての店舗を業績表彰店に導いた手法とMBAの知識をもとに、個社別のコンサルタントや経営関連講演を行うことで事業サポートを行っている。 銀行の枠組みを超えた企業サポート手法のひとつとしてクラウドファンディングの可能性に魅力を感じ、クラウドファンディングを利用した事業サポートに注力している。 また、起業志向学生のメンターとして大学発ベンチャーのサポートも行っている。

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