MBA ファンディングアドバイザー 西谷佳之

金融機関経験を活かした中小企業の創業・経営支援

資金調達 銀行

「陸王」と「銀行」のおはなし ①

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12月24日(金)の最終回からすでに1ヶ月が経とうとしていますが、結構ご質問いただきましたので、今更ながらTBS日曜劇場「陸王」の中での「埼玉中央銀行」の対応と実際について、銀行目線でまとめてみました。

ドラマで、こはぜ屋が埼玉中央に融資を依頼したのは

① 運転資金の反復 2,000万円
② 陸王の新規事業資金(シルクレイ) 2,000万円
③ 運転資金の反復 2,000万円
④ 足軽大将の製造資金 3,000万円
⑤ シルクレイ製造装置代 1億円

以上の4回でした。(テレビと原作では少し異なる部分がありますが)

それぞれの場面での「埼玉中央銀行」の「こはぜ屋」に対する対応を参考に、実際に銀行はどのように考えているかを見ていきましょう。

今回は①と②の途中までの場面についてです

① 運転資金の反復2,000万円

最初のこのくだりは、「こはぜ屋」の財務状況がどんな状態かを周知させる目的が強かったと思います。また今後の方向性を明確にするためもあったのだと思います。

前提として、「こはぜ屋」の年収は7億円(宮沢社長が叫んでおられましたね)。担保はすでに余裕がないとのことでしたので、おそらく不動産にはすべて担保設定されていると推測されます。(原作では担保余力は無いとのことでした)

今回の運転資金2,000万円は反復調達資金でした。今回は6月頃、次に運転資金を依頼する(③)のが春先になりますので、おおよそ1年毎に運転資金を反復調達しているのだと思われます。

年商7億を月商になおすと5,800万円。毎年2.000万円の運転資金が必要ということは、0.34ヶ月分しか必要無いということです。本当に1年に1回の調達とすれば、非常に条件の良い取引をしているのでしょう。現金回収割合が多いなど、売上てから現金が入ってくるまでの期間がすごく短く、支払の条件も良いと想像できます。

月商ベースで見れば必要運転資金は通常と比べて、かなり少ないです。

しかし、資金は不足している。回収の手形サイトが非常に長いとか、長期借入の返済ピッチが非常に早いとか、いろいろ想像は膨らみますが、ここでは「こはぜ屋」の資金繰りがギリギリの状態であること、最初の担当の坂本さんの対応が前向きであることを印象付けるステージということで、財務面には深く入らないようにします。

・坂本さんの提案

坂本さんは、融資申込を検討するにあたり、宮沢社長に 新たな事業を検討するよう言いました。結果として「陸王」へと繋がっていくのですが、今回のように「陸王」の製造を新規事業とすることは事業戦略としてどうなのでしょう。

市場の変化に伴い販売戦略を変えることは経営に常に求められます。ただ、次の一歩をどこに定めるかは非常に難しい問題ですね。そういった時によく使われるのが「アンゾフの成長マトリックス」というフレームワークです。

これを見ると、市場と商品を変えるほどリスクが高くなるのがわかりますね。

「陸王」が D の多角化かどうかは意見の分かれるところではありますが、市場は明らかに変わっているので、CD の間くらいのポジションでしょうか、リスクは高いですね。

同時に「足軽大将」も販売しているのですが、これは B です。財務上、資金繰上で不安がある企業はあまりリスクを取っては企業の存続に関わりますので、セオリー的には B のポジションで広げていくことが望まれます。

【しかし余談ですが、究極の D はフィリップスへのシルクレイ販売です。市場も商品も全く変わってますので。
製品販売から材料販売ですから、業態自体も変わっています。シルクレイが手に入って、フィリップスが現れて、これが成ったということ自体ミラクルだと思います。リスクを奇跡的に回避していますよね。】

なので、資金繰りがタイトで業績が厳しい中「陸王」への投資は、するとすれば余剰資金で行うべきです。会社に負担がかからないように。従業員の生活がかかっていますから。

「こはぜ屋」の対応は、企業の存続という観点から見て、リスクが大きすぎると判断します。銀行的にはほぼNGですね。

② 陸王の新規事業資金(シルクレイ) 2,000万円

ちなみにこの時は、「こはぜ屋」の担当は大橋課長に変わっていました。

宮沢社長が事業計画書を持って説明に行きましたが、大橋課長は「この事業計画通りに進む保証は?」と聞きました。宮沢社長が「そんなことはわからない!!」と大声で叫んだシーンです。

多くの人は(大橋課長はなんてひどい人だ!)と思われたのでしょうね。しかし、銀行の融資課長としてはごく普通の質問だと思います。

銀行は慈善事業ではなく営利団体です。ましてお客様の預金を預かって、それを貸し出ししているわけですから、損をするわけにはいかないのです。

・融資と投資

坂本さんが転職したベンチャーキャピタルならば、多少のリスクを取ってもリターンを狙いに行くでしょう。しかし銀行はそういうわけにはいかないのです。

もし、みなさんが「埼玉中央銀行」にお金を預けていて、その大切なお金が、まだ売れるかどうかもわからない商品の設備代として、資金繰りもままならない会社に貸出されるとしたらどうでしょうか。「かならず売れる!」と社長が言っていたとして、根拠なく貸出されることに賛成しますか? 同じなら安全なところに貸してもらったほうが良いと考えませんか。

投資と融資の違いはそういったリスクの大きさにあります。

『もし貸出先が潰れてもかまわない、もし上手くいったら大儲けだ』
これは投資。

『もし貸出先が潰れたら損をするので、上手くいったら大儲けするかもしれないけど、やっぱり手堅く返ってくるところに貸したい』
これは融資。

と、まあこんな感じでしょうか。

銀行は[計画の根拠は何か][信頼できるものか][返ってくるお金か]といったところは必ず確認します。皆さんが事業計画書を持ち込んだ時にも、必ずこういったポイントは聞かれますので押さえておいてください。

「資金を投じる前に、実績を積み上げるほうが正しいのでは?」と大橋課長は言いました。腹を立てた視聴者の方もおられたでしょうが、現状は、銀行から資金を調達するということは、そういうことだと思います。

次回は、坂本さんの退職と宮沢社長の抵抗などを銀行目線で見てみましょう。

 

 

 

 

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西谷 佳之
大阪生まれ 神戸大学大学院経営学研究科修了(MBA) 大学卒業後地方銀行勤務。約10年 4ヶ店の銀行支店長経験後リレーション推進部地域創生室を経験し、大阪大学産学共創本部特任研究員として大学発ベンチャーの創生に関わる。 一方で、中小企業支援をライフワークとし、テイクオフパートナーズを立上げ。銀行ではほぼ全ての期間で法人取引を担当した経験や、支店長として着任したすべての店舗を業績表彰店に導いた手法とMBAの知識をもとに、個社別のコンサルタントや経営関連講演を行うことで事業サポートを行っている。 銀行の枠組みを超えた企業サポート手法のひとつとしてクラウドファンディングの可能性に魅力を感じ、クラウドファンディングを利用した事業サポートに注力している。 また、起業志向学生のサポーターとして大学発ベンチャー創生にも携わっている。

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