MBA ファンディングアドバイザー 西谷佳之

金融機関経験を活かした中小企業の創業・経営支援

資金調達 銀行

「陸王」と「銀行」のおはなし ②

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おはなし①は、陸王の新規事業資金申込みの途中まででしたので、その続きを。
ちなみに、ドラマ陸王での銀行融資申込みは以下の5回でした。おさらいまで。

① 運転資金の反復 2,000万円
② 陸王の新規事業資金(シルクレイ) 2,000万円
③ 運転資金の反復 2,000万円
④ 足軽大将の製造資金 3,000万円
⑤ シルクレイ製造装置代 1億円

坂本さんの退職

坂本さんは①の反復資金の実行をした後、新規事業資金申込みの前に支店長とやりあって異動、そのあと退職してしまいました。

(やりあったのが原因かどうかわかりませんが。確かに支店長には人事権はありますが、気に入らないから急に異動させるとか、そんなこと言ったら、逆に人事管理能力を疑われますよね)

多くの方は、坂本さんは銀行員の鏡のような人だと思っておられるのでしょう。顧客の身になって親身に考え、上司にも意見具申してくれる。こんな銀行員がいたらいいな、と。

坂本さんは良い銀行員

本当にそうでしょうか。たしかに顧客側からすれば100%味方の良い銀行員に見えます。この人がいれば資金調達に困らないと思えますよね。銀行に入行した人たちも、若い頃は特にこういう銀行員に憧れるんじゃないでしょうか。ある意味正義の味方のような。

しかし、今回の坂本さんの意見具申(陸王新規事業資金)は、根拠に基づいた意見具申ではなく、あきらかに感情的でした。新規事業が必要なのはわかりますが、あきらかに返済原資の根拠なき融資です。

前回も申しましたが、預金者の皆さんからお預かりしている資金を、返ってくるかどうかわからない融資に充当することは出来ないんです。リスクを把握し、最小限度に抑え、融資資金の回収を前提とした融資を行わないといけません。

銀行員に求められること

銀行員の鉄則として、決して感情で融資判断をしてはならないのです。それを許せば、それこそ支店長の好きな企業には融資をし、嫌いな企業には資金を出さないといったことになり、ドラマ「半沢直樹」のような不正融資に繋る可能性が生まれるのです。

お客様は融資先ばかりではなく、預金先もあります。お金の借り手と出し手、双方の立場に立つ必要があるのです。

また、借りた方についてもリスクがあります。返済のめどが立たないまま借りるということは、現状の資金繰り問題の先送りでしかありません。いずれ返済資金が枯渇し資金が回らなくなってしまいます。そうなってしまえば倒産に繋がる可能性もあります。

今の資金にしか目がいっていない経営者の目線を、将来を含めた広い目線に変え、冷静な判断を即すのも銀行員の役目なのです。

感情的になっていた坂本さんは、もしかしたら他の先の件でも同様に課長や支店長とやりあっていたのかも知れません。そうであったとしたら、融資判断能力に難ありと判断される可能性もありますね。感情的になることは正しい判断を妨げます。銀行員にあってはならないことなのです。

返済能力の必要性

今までの話は、あくまでも銀行側からの見方だと思います。借りる側からみたらまた違うでしょうし、預ける側からみても違うでしょう。

ただ、坂本さんと大橋課長、支店長の論争の焦点は「陸王」が売れるのか?返済は約定通りできるのか?でありました。
多くの苦難を乗り越えてこられた 株式会社武蔵野の小山社長は著書「数字は人格」のなかで、銀行が一番みているのは、自己資本比率などではなく、返済能力だと述べておられます。

一番かどうかは別として、みなさんが銀行で融資の応諾率を上げたいなら、返済できるという根拠を示しておくことは必要ですね。

銀行は結果にしか融資をしない

坂本さんは「こはぜ屋」さんに退職の報告をした時に、「銀行は結果にしか融資をしない」と言ってましたね。
これはその通りだと思います。最近は幾分か変わってきたとは思いますが、それでもその体制に大きな変化はないでしょう。
(融資案件検討において、自分も今まで何度も悔しい目に遭ってきました。)

つまり、今いくら業績が好調でも、前期の決算書が悪ければ、次の決算が出るまでは融資の枠などは広げてもらえないと思います。まあ、逆も然りですが。
(近年は銀行も月次試算の推移などで判断するようにはなっていますが、それも結果判断ですね。)

銀行は、不確定なことの判断はできないのです。また、非財務資産(権利など)を評価することも非常に苦手です。
(これは、個人的にはノウハウ以前に、リスクを取りたがらない者が多いので状況が変わらないのだと思っています)

支店長との話

話を戻します。宮沢社長は融資申込みの際に、「大橋課長では話にならない、支店長と話をさせてくれ」と強引に家長支店長と面談しました。
家長支店長はその時に
「リスクがあり過ぎる。もう少しスピードを緩めてはどうでしょう」と言われます。
「(担保の余力も無いなかで)本来の運転資金も必要なのに、新規の2,000万円調達は相当のリスクですよ」とも。

まったくその通りです。「こはぜ屋」の財務状況は苦しい状況で、仮に今回お金が借りれたとして、次の運転資金借入の時には 今回借り入れた融資残高が残っていますから、融資は難しいでしょう。

担保余力も無いですし。どちらか一方しか借入れ出来ないならば、まずは運転資金を確保しないといけません。運転資金が反復調達できない場合は会社の資金繰りが回らなくなるということに即繋がるからです。

その点、「陸王」分の2,000万円は無くても会社の資金繰りには影響しません。(将来的な売上増加に繋がる可能性は否定できませんが)

どちらが会社にとってリスクか。家長支店長はこれを言っているのです。ドラマではお菓子を食べたり、意地悪な顔をしたりしているので悪者のイメージが付きますが、言ってることはごく当たり前のことです。感情的にならず至って冷静ですね。(写真は馬場さんのツイッターより)

本業と新規事業に分けて考えれる?

宮沢社長は「何故だ、本業と(新規事業を)分けて考えてくれ!」とおっしゃいました。これは無理な話ですね。
なぜなら、売上も利益も上がっていない事業への融資ですから、その返済は当然、今の事業(こはぜ屋なら足袋)の資金で返済することになります。それしか出来ませんから。なのでこういったケースで事業を分けて融資審査することはありません。多くの銀行が同じ答えを出すと思います。

シルクレイの価値と市場性を評価できたとしても、今はまだ商品となるかさえわからぬものに簡単に資金を出すのは難しいのです。

担保余力や資金繰りに余裕がある場合、新製品の受注がすでに入っている(受注生産ですね)場合などあれば検討の余地はあると思います。

個人預金の取り崩し

最終的に、宮沢社長は個人名義の預金を取り崩すと言いました。10年以上も前なら銀行は断っていたのではないでしょうか。今は、担保預金以外については拘束力は無いので解約は可能です。
家長支店長は「今後のこともありますから」と少し抵抗しますが、そこは応諾します。せざるを得ないでしょう。しかし、実はこれが次の運転資金反復時に影響してくるのです。

企業融資とオーナー預金

自分の預金なのに使って何故悪い!と思われた方も多いでしょう。たしかにそのこと自体は悪くないのですが、「こはぜ屋」の資金繰りが厳しい状態で、いつ返済がストップするかも知れない状況の中、埼玉中央銀行が運転資金の反復を行ってきたのは社長の個人預金があったからでしょう。

銀行は状況が厳しい企業について、今倒産すればいくら回収できるかを常に見ています。担保余力が無くとも、反復額と同程度の預金があれば最終的に損失は免れるので 反復には応じることが可能です。

企業が倒産しても、個人の預金とは別じゃないかと言われる方もおられます。最近は保証人を取らないケースが増えてきてはいますが、特に中小企業のオーナーなどは、現状、銀行取引約定書上の保証人にはなっている事が多いと思います。そうなれば、倒産と同時に預金も押さえられます。

また、そうなっていない場合でも個人預金が解約できなくなる可能性が高いのです。保証人に入っていなくてもです。

同じ銀行に預けるリスクとメリット

同じ銀行に預けてあることで個人預金がすぐに解約出来なくなる可能性は高まります。預金を解約する場合、必ず銀行でのオペレーションが必要になります。解約操作ですね。

実は預金などには、勝手に解約が出来ないように操作停止のコードを設定することが可能です。たとえ、同じ銀行の他店に解約に行っても、解約操作は出来ません。取扱店に連絡が入るようになっています。

銀行とて個人の預金を 保証人でもないのに勝手に解約し、法人の貸金返済に充当することは出来ませんが、代表者に預金を企業融資返済資金に充当するよう、交渉することは可能です。

また、社会的道義から言っても、上場企業の雇われ社長はともかく、中小企業のオーナーは会社とは明らかに一心同体です。自らの資産は会社のために使うべきであると考えるのが一般的でしょう。

なので、これらのことから担保に入っていない預金でも、実質の担保として融資判断材料に加味され、融資が受けやすくなる反面、逆に自分の銀行にあった個人預金が無くなってしまうと、融資した銀行にとってのリスクは急に大きくなってしまい、次の融資に応じにくくなるのです。

では違う銀行に置いておけば大丈夫なの?と聞かれると、少なくとも即凍結されることはないとしかいえません。

企業のオーナーは、やはり従業員の生活や取引先に対して、責任を持つべきだと思うからです。企業と個人を分けて考えることについては、あまり賛同出来ません、個人的には。

次回は③の2,000万円運転資金反復から進めていきます。

 

 

 

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西谷 佳之
大阪生まれ 神戸大学大学院経営学研究科修了(MBA) 大学卒業後地方銀行勤務。約10年 4ヶ店の銀行支店長経験後リレーション推進部地域創生室を経験し、大阪大学産学共創本部特任研究員として大学発ベンチャーの創生に関わる。 一方で、中小企業支援をライフワークとし、テイクオフパートナーズを立上げ。銀行ではほぼ全ての期間で法人取引を担当した経験や、支店長として着任したすべての店舗を業績表彰店に導いた手法とMBAの知識をもとに、個社別のコンサルタントや経営関連講演を行うことで事業サポートを行っている。 銀行の枠組みを超えた企業サポート手法のひとつとしてクラウドファンディングの可能性に魅力を感じ、クラウドファンディングを利用した事業サポートに注力している。 また、起業志向学生のサポーターとして大学発ベンチャー創生にも携わっている。

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