企業のイノベーションが進まないわけ
地方創生はその地域の企業が元気になることがひとつの鍵であることは以前のブログでも述べましたが、企業はイノベーションを起こし続けて事業発展させていくことで元気になっていきます。(過去ブログは以下をご参照ください)
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「地方創生」「地域活性化」成功のカギは、起業家にあり
地方創生の多くが失敗している 現在、自治体が中心となって行われている地方創生ですが、いくつもの成功事例が取り上げられている一方で、 その何倍、何十倍もの地域で失敗していることは、大々的に報じられること ...
ところが、なかなか企業内で(特に日本の企業で)イノベーションは起こりにくいと言われています。
この要因として、経済産業省が創設している「イノベーション100委員会」では以下の5つを挙げています。
- 今までのモデルから脱却できない
- 既存事業による短期業績に注力し過ぎる
- 顧客の本質的なニーズを捉えられない
- 現場のアイデアがことごとく弾かれる
- 内部リソースにこだわり過ぎる
これらのことは、社内の決定権者と現場とが乖離しており、責任の所在は決定権者にあるがゆえに決定権者は失敗を恐れ、過去の成功体験から脱却できず、目先の業績を追い求めるとともに無難なアイデアにのみ資金を投下するという 日本企業の仕組みによるものです。
他にも細かい理由はたくさんありますが、大きく言えば決定権者が失敗を恐れてしまうことと、技術をクローズドにしてきた日本企業の功罪ですね。
産学連携をするとなぜイノベーションが進むのか
「産学連携をするとイノベーションが進む」とよく言われます。
オープンイノベーションも広まってきていますが、一方でやはり企業と企業、立ち位置が同じであり 同じ力関係のところはどちらが主導権を取るかなどの綱引きもあり、成功事例の阻害要因ともなっています。
その点、産学連携は企業と大学等の研究機関(以降「大学」に統一)のコラボであり立ち位置が少し異なることからスムーズに話が入りやすいと言えます。
「大学」は事業収益もあるのですが、アカデミア実績・研究成果にも重きを置くことから、企業とうまく棲み分けることも可能です。
また、研究資金が潤沢に入ってくるというのも「大学」にとって産学連携の魅力なのです。

大学側も研究者にしてみれば、助成金・補助金の採択にも限界がありますから非常に好ましい状況だと思います。
一方、企業は責任を企業外に置くことになり(悪く言えば研究成果の責任は大学側と折半なので決定権者の責任は軽くなりますね。)、現状の業績とは分離して業績把握することも可能です。
その結果、企業は短期的な業績や失敗の可能性に囚われることが少なくなり、イノベーションは進みやすくなるのだと考えられます。
産学連携の課題
産学連携がうまく進んでいる事例は多く挙げられていますが、一方でその何倍もの企業が産学連携を希望するにも関わらず、連携できない状況にあります。
特に、小規模の企業においては自社の課題を「大学」にぶつけることすら叶いません。
課題を解決してくれる「大学」の研究者がどこにいるのかすらわからないのが普通なのです。
日本には良い技術を持った企業がたくさんあります。
それらの企業の持つ課題を解決することで大きなイノベーションを起こせるかもしれないのに、肝心の研究にたどり着けないのです。
たしかに各大学にはコーディネーターの役割を担っている人が配置されています。大学の研究と企業を結びつける役割も担っておられるのですが、圧倒的に少ないと思います。
産学連携コーディネーターに必要なトランザクティブメモリー
産学連携コーディネーターは、各大学に配置されていますが、本当に産学連携を進めていくために、さらにそのコーディネーターどうしを繋ぐ独立したコーディネーターが必要なのです。
それらの独立したコーディネーターに必要なスキルは、企業ニーズとマッチさせるために研究者の研究内容や技術を正確に把握していることではありません。
「誰が何を知っているのか」を知っていること、トランザクティブメモリーを高めることなのです。
トランザクティブメモリーとは、組織学習の概念のひとつです。
組織内情報共有と似ていますが、少し異なる概念です。
組織内情報共有は、組織内全員が同じ情報を知っていることです。
たとえば産学連携コーディネーターの場合、「各大学の産学連携コーディネーター全員が自大学の研究者のすべての研究内容を知っていること」これが組織内情報共有です。
しかし、学部も専門分野も異なるデータを全て把握することは不可能に近いのでは無いでしょうか。
ましてや、他大学の研究者のことまでとなるとほとんど不可能に近いですね。
トランザクティブメモリーは細かい情報を共有するのではなく、専門的な情報を持っているのは誰なのかを知っておくことです。
企業ニーズを金融機関や商工会議所などから吸い上げ、それをどの大学のどの人に聞けば一番マッチする研究にたどり着くだろうかということを、コーディネーターは知っておくことが必要なのです。
高いトランザクティブメモリーを有するコーディネーター組織を作ることが産学連携には欠かせません。
大学が地域を変えていく
産学連携にはもう一つ重要な役割があります。地方創生です。
なぜなら、現状の地方創生のやり方では限界があるからです。
現在 日本で地方創生といえば、国の施策に基づき、市町村などの自治体単位、もしくは都道府県単位で施策が履行されています。
なので、この企業は本社があるから〇〇市のサポートを受けれる。同じ事業を営んでいるが、こちらの企業は本社が△△市なのでこの地域のサポートは受けれない。といったことになります。
そもそも、市町村の枠組みはどうやって決められているのでしょう。実は憲法には市町村の詳しい定義はなされていないのです。
だからかも知れませんが、世田谷区や練馬区よりも人口が少ない都道府県も存在するのです。
おそらく地理的な境界(山や川など)で分かれているのでしょうが、文化や経済的に重複している部分も多い市町村ごとで独自の地方創生施策を打ち出し、互いに競い合い、横の連携がなされていないというのが大半ではないでしょうか。
この横の連携に乏しいことが日本の地方創生の一番のネックだと思います。
そして横の連携をうまく行うためには、市町村と異なる目線、もう一つ大きく物事を見る目線が必要です。
そしてそれを担うのが各地域の大学なのです。
大学が企業、産業目線で地域をつなぎ合わせる役割を担うことで、地方創生が市町村や都道府県の枠組みに囚われず進んでいくことになるのです。
そして、各地域の企業ニーズと大学の研究シーズをつなぎ合わせるのが、先述したコーディネーターです。
地域の各金融機関、大学、研究施設などをうまくつなぎ合わせ、企業のイノベーションを推進していく為のマッチングを独立したコーディネーター組織が行い、ニーズとシーズがジャストマッチした企業と「大学」が技術を高めイノベーションを創出するという仕組みが必要なのです。
日本の地方創生・イタリアの地方創生
日本のこれまでの地方創生は、各自治体が自治体区域に住む居住者の増加を第一に考え、住民を増やすにはどうしたら良いかという目線で行なう傾向にありました。
大半が国からの補助金を使って施設を作ったり、地方創生コーディネーターのような人を雇ってたまたま他自治体で成功したケースを自分達に当てはめてみたりしています。
経験から言いますと、同じ経済圏なのに、他自治体との提携を行うケースは少なく、むしろ限られた居住者というパイを取り合って自治体同士が競い合っているいるイメージが強いですね。
イタリアでは、居住者を増やすという目線は持っていなかったようです。
地域ごとの産業を活かし、地域自体が経済的に独立することを目指しました。小さな町の大半が独自の産業を持ち 稼いでいるのです。
それぞれ、メガネ・家具・靴・車・食品・ワインなど得意とする産業は異なりますが、産業ごとに自治体が分かれているともいえます。
日本では権限が地方自治体にまで降りてきていないのでなかなか難しいという声も聞かれます。ただ、イタリアとて同じ状態でした。
60年ほどかけて中央から地方への自治権の移譲を行なってきています。出来ないことでは無いのです。
大学を中心とした地方創生
日本でも地域が稼ぐという目線で地方創生を行うべきです。
しかし、自治権が中央に集約されている現状、自治体はなかなか動きづらいのかも知れません。
なので、各地域の大学がその役目を担うべきなのです。
大学が自治体の枠にとらわれない、産業ベースの枠組みを作ることが必要です。
たとえば、A大学は医療系が強いのであれば、企業とのマッチングもその方面の研究が主になってくるでしょう。そして医療関係の企業と技術をその大学のある地域に集約し、地域として稼いでいくことが可能となります。
こういった形で各大学の得意分野を中心に産業ベースの枠組みを地域に作り(当然自治体はまたがっても構いません)、その枠組みで経済的に独立することによって、活性化を図ることが新たな地方創生につながるのでは無いかと考えています。
企業ニーズと大学研究のジャストマッチングが行われれば、地域の経済的な独立の可能性はさらに高まっていくと予想されます。
また、産学連携によりイノベーションが加速すれば、イタリアの都市のように、各地域の産業が世界レベルとなることも夢ではありません。

テイクオフパートナーズ代表
MBA
2級知財管理士
2級ファイナンシャルプランナニング技能士
西谷 佳之
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