MBA ファンディングアドバイザー 西谷佳之

金融機関経験を活かした中小企業の創業・経営支援

資金調達 銀行

「陸王」と「銀行」のおはなし ③

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おはなし②は、陸王の新規事業資金申込みを深堀しましたので、今回は③運転資金の反復から。
ちなみに、ドラマ陸王での銀行融資申込みは以下の5回でした。おさらいまで。

① 運転資金の反復 2,000万円
② 陸王の新規事業資金(シルクレイ) 2,000万円
③ 運転資金の反復 2,000万円
④ 足軽大将の製造資金 3,000万円
⑤ シルクレイ製造装置代 1億円

③ 運転資金の反復 2,000万円

前回にもお伝えしましたが、宮沢社長の預金の解約によって、個人法人合わせてみた場合に資産が2,000万円減っています。「こはぜ屋」の業績と相まって、通常、しぶしぶ反復が行われていた運転資金融資ですが、今回は厳しくなります。

大橋課長は「融資がダメな場合はどうするのですか」と質問していますが、これは他の手段も考えておくように、ということです。
融資の決済が下りない可能性があるということですね。

しかし、ここで経理担当のゲンさんがうまい具合に銀行に対して餌を撒きます。
「積立を増やすことも考えます」
たかが月々10万円か20万円かも知れません。2,000万円に比べれば小さい額です。それくらい増やしたところで何になるんだ?とお思いかも知れません。

しかし銀行は時系列で物事を見ていきます。つまり、小さな額でもそれが10回、20回となれば額は大きくなってきます。当たり前ですが。これは企業が存続している間入ってくるお金です。

なので、この企業が5年は大丈夫と判断した場合、5年間で月10万円なら600万円、20万円なら1,200万円が今の積立以外に別途積み上がります。大きいですよね。
今の積立と合わせ、どれくらいの期間たてば2,000万円になるのかはわかりませんが、預金の積み上げも融資を判断するうえで有効な手段となるのです。

「銀行は融資を承認する理由を探しているのですよ」とゲンさんは言いました。まさにその通りです。銀行員もオニではありません。人の子です。融資を実行できればお客様にも喜んでいただけます。実は多くの銀行員は、融資を承認できる材料をたえず探しているのです。

④ 足軽大将の製造資金 3,000万円

意外なことに、大橋課長が前向きな姿勢を見せ「なんとか頑張ります」と。最終的には3,000万円が2,000万円に減額されましたが、通常の運転資金以外の融資の応諾となりましたね。個人定期を解約しているにもかかわらず。何故でしょうか?

なぜなら、足軽大将の受注がどんどん入ってきているからです。これは通常反復している2,000万円の運転資金とは異なり、売上が増加しているが故に必要になる増加運転資金なのです。

増加運転資金とは

たとえば、今月は仕入が8万円で売上が10万円だったとします。翌月は15万円の売上だとすると、今月は12万円の仕入が必要です(仕入は売上の80%として)。
ところが売上代金10万円を回収しても今月の仕入代金には足りません。売上が増加しているのに資金が不足するのです。これを増加運転資金といいます。

増加運転資金は、前向きな資金なので、売上の見込みが確実で、他の資金に流用されないならば銀行は資金を出します。
大橋課長も割とすんなり出してくれました。おまけにアッパー素材屋さんまで紹介してくれたのです。(お礼も言っていましたね。大橋課長のノルマ、キツかったんでしょうか?という下世話な推測は抜きにして)

前向きで回収がまず間違いない資金は銀行が一番出したい資金なのです。

⑤ シルクレイ製造装置代 1億円

さて、問題の資金です。これは今まであったものが無くなって、それを新たに補うだけの資金です。つまりこの融資をして装置を作っても、新たに売上が増えるわけではない、装置があってはじめて今まで通りということです。

物語では、うまくフィリップスを絡ませて、装置が出来れば売上が上がると思わせていますので、みなさんも融資をしたら儲かるのに何故出さないんだ!と思われたかもしれません。

しかし、実はフィリップスはこの融資とはまったく別のことなのですね。装置が壊れても壊れなくてもフィリップスは現れたのです。壊れてなければ普通に素材納入することで終わってしまいますから物語的には面白くないですけれど。

つまり、装置が壊れたことにより、装置が壊れなかった時の状態に、単に1億の負債が乗っかることになるだけなのです。ただでさえ返済が厳しいなか、1億の返済(仮に設備資金なので減価償却を加味し、期間10年として)年間1,000万円+利息の支払負担だけが増えることになります。
普通に考えて、返済は難しいですね。

貸すも親切、貸さぬも親切

馬場さんのTwitterより

家長支店長は「貸すも親切、貸さぬも親切」と言いました。「『こはぜ屋』を守るために貸すわけにはいかない」と。
まさにその通りだと思います。銀行としてこの資金を出すのが良いのかどうか?
まずは出さないでしょう。失敗した時の企業のリスクが大きいからです。

借金が1億円増えるということは、ただでさえタイトな資金繰りをさらに圧迫することになります。見込んでいる売上(この時点では何の確証もありません)が立たなければ、資金繰り破綻してしまいまう可能性があります。

そうなれば足袋の事業も失ってしまうことになるのです。借入しなければ失うのはまだ海の幸とも山の幸ともわからないスポーツシューズ事業だけですね。この企業を生かしていくために銀行として、時には縮小方向も示す必要があるのです。

ただ、借りてさえしまえば、じつはリスケをして超長期に伸ばしてしまうなんてしてしまう会社もあります。銀行にとってはひどい話ですが、改善計画に基づいた返済の猶予は時限立法が終了した後も受け入れられる傾向にあります。しかし、計画的にこのようなことをすることは認められるものではありませんが。

もしフィリップスの売上が確約されていたら

もしこの時点で売上の確約があり、1億の融資をすれば あらたな売上に繋がるということでしたら、銀行の見方は随分と変わるでしょう。
貸した1億円が自ら返済原資を生むとなれば、この1億円がもとで業績が改善していくからです。

銀行はオニではありません。企業を潰すリスクを冒してまで利益を取ろうとは思いませんが、逆に収益が入ってくる企業をみすみす逃してしまうこともしません。

銀行から資金を引っ張るには資金の性格を押さえておく必要があります。

⑥ フィリップスの3億円(おまけ)

フィリップスの条件は、3億円を5年返済、最初の3年間はフィリップスの売上だけで返済出来るように発注する。それ以降はわからない。売れていなければ発注はしない。その時に返済できなければ株式として資本に組み入れ、子会社化するというものでした。

私は、この条件を提示された時に『すぐ乗るべきだ!』と思いました。(結果としては売上30億円と大幅増加し従業員も増え、業績好調だったわけですが、それは関係ありません)

なぜなら、御園社長が言った『最初の3年間はフィリップスの売上だけで返済出来るようにする』という条件さえあれば、十分にやっていけるからです。

4年目の融資残高は元金で1億2,000万円。宮沢社長はこの資金を返済出来るかかなり悩んでおられました。しかし、3年間フィリップスの売上だけで返済出来るとはどういうことでしょうか。

3億円を5年で割ったら、年間6,000万円の返済だから、年間6,000万円づつ発注が来る。いや、そうではないのです。

長期借入金の返済は利益と減価償却費などで行います。
もし機械を3台作ったとしたら、減価償却費は10年償却として年間1,000万円×3台=3,000万円。
つまり、長期資金の返済を行うためには、最終利益3,000万円(返済元金6,000万円ー減価償却費3,000万円=3,000万円)が必要となってきます。
税率が40%として、税引前利益が5,000万円の売上がフィリップスによって確保されるのです。

足袋事業の経常利益率は良くて10%程度かもしれませんが、運動靴の新商品であり利益率が高いとし、経常利益率は15%としましょう。
そうすると、売上になおして3億円強の受注がフィリップスから入ってくる計算になります。

その他の売上が変わらないとして、「こはぜ屋」の売上は足軽大将を加味しなくとも、年間10億円と4割アップとなります。利益も大幅増です。

これが何を意味するか。
坂本さんが辞めていった時の言葉、覚えておられますか?「銀行は結果にしか融資をしない」でしたね。

来年はフィリップスの売上が乗ってくるので、必ず結果が出るじゃないですか。さらに大橋課長がすぐに出してくれた理由はさきほど述べました「増加運転資金」でしたね。売上が増加しているのです。つまり、銀行から資金を引っ張りやすくなっているということです。

銀行目線で見た場合、世界的企業のフィリップスとの新規取引が始まり、売上が増加している。それが3年間も続いている。
ということは、前向きに融資が出来る企業と見れるのです。この企業の持っている素材はフィリップスが評価するほど価値があると。
なのでこの会社は将来的に伸びていくだろうと考えてもおかしくありません。

シルクレイが実は売れなくて、フィリップスが3年後に発注をやめたとした場合はどうでしょう。

ここで「銀行は結果にしか融資をしない」というのが生きてくるのです。
4年後から売上がダウンしますが、銀行の格付は3年終了時の業績に基づくものですから、フィリップスの売上が計上された決算を評価します。もちろん利益率も良いですね。

したがって、3年後の決算後〜4年後の決算前 の間「こはぜ屋」は、銀行が融資したい先なのです。
なので、フィリップスから借りた資金は銀行からの融資で返済は出来る可能性が非常に高いのです。

ましてや、銀行は晴れた日に傘を貸すのですね。3年の間に銀行から資金を引っ張っておけばフィリップスの子会社にはならなくて良いのです。なので、フィリップスの条件にすぐに乗るべきだ!と思ったのです。

4年目以降、利益が下がり返済できなかったらどうするのかですって?

先ほど述べました、リスケという手があるじゃないですか。借りさえすれば、返済の意志さえあれば、新たな資金の調達さえ諦めれば、無理のない範囲で既存の融資を返済していくことが出来るのです。

決して推奨しているわけではありません。誤解なきようお願いします。努力してどうしようもなくなっても、そういった方法もあるということです。そこからまた立ち上がるための猶予は残されているということなのです。

埼玉中央銀行がそんなに悪者でないわけ

半沢直樹など、これまでの池井戸先生の話と比べ、陸王での銀行の扱いは非常にマイルドなものでした。半沢直樹では悪の巣窟のように書かれていましたが。

たしかに、銀行の内部の話ではない為に、銀行が悪者にならないということもあるのでしょう。
しかし、実は原作ではけっこう悪者扱いされているんですよね。

たとえば、「こはぜ屋」がフィリップスの支援を受けて大きくなったことなんて、支店長は知りませんでした。大橋課長は、1億円の融資を断ったあと、もう「こはぜ屋」を訪問すらしていなかったのです。たまたま通りかかって、支店長がメイン銀行も変わっていることを知り、また宮沢社長には軽くあしらわれ、悔しい思いをする。というくだりになっています。

テレビドラマとは違いますね。なぜでしょうか。

おそらく、テレビ局の配慮でしょう。銀行業界がマイナス金利や地域の景気悪化などで疲弊しているなか、銀行を原作のまま悪者にしたててしまうと、SNSで非難されたりする可能性もあり、リスクを出来るだけ排除しようとしたのではないでしょうか。担当者も最終的には良い人と捉えられるように変えたり。

大人の事情というやつですね。

 

 

テイクオフパートナーズ代表
MBA
2級知財管理士
2級ファイナンシャルプランナニング技能士

西谷 佳之

 

いつもご覧いただきありがとうございます。

 

他各種ビジネスセミナー、個別コンサルタント等を賜っております。

過去講演題目(抜粋)

・スモールベンチャーファイナンスのリアル
・ドラマ「陸王」から紐解く 経営ビジョンが叶える会社の生き方
・オープンイノベーション推進におけるクラウドファンディングの活用について
・銀行から融資を受けるポイントとは
・財務分析の勘所
・女性のためのクラウドファンディング
POC手段としてのクラウドファンディング
・クラウドファンディングと社会的インパクト投資
・資金調達ツールとしてクラウドファンディングの使い方
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大阪生まれ 神戸大学大学院経営学研究科修了(MBA) 大学卒業後地方銀行勤務。支店長として約10年 4ヶ店 全ての支店を業績表彰店舗に導くことに成功。その後推進部地域創生室を経験し、大阪大学産学共創本部特任研究員として大学発ベンチャーの創生に携わる。東京にてボードメンバーとしてベンチャー参画し、現在は大阪にて大学発ベンチャーのCFOとし、資本政策や海外子会社設立など経営に参画するとともに、新規商品開発にも関わる。 一方で、中小企業支援をライフワークとし、テイクオフパートナーズを立上げ。銀行での経験やベンチャー経験、MBAの知識をもとに、事業サポートを行う。 クラウドファンディングなどのツールによる直接金融をサポートすることで金融機関融資に頼らない資金調達、創業をアシストする。 また、セミナーなどを通じ起業志向学生をサポートすることで新しい事業創出の一助を担うことを目標としている。

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